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松坂大輔という“超目玉”を逃した横浜スカウトの悔し涙「ものすごく不吉な予感に襲われたんです…」ドラフト抽選前に何があった?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2022/10/20 11:05
西武に交渉権が決まった瞬間、口元をゆがめて苦笑する横浜高・松坂大輔(1998年)
稲川が初めて松坂を見たのは、彼が全国区になる以前、高校2年夏の県予選の前ぐらいだったという。ひと目見てその類稀な素質に惚れ込み、以来、横浜高校へ通い詰めた。
「もうホント、グラウンドに毎日毎日、熱心に通いましたよ。公式戦はもちろん、招待試合も全部行きました。渡辺監督や小倉部長には『彼を欲しい』とお願いしましたし、本人とはしゃべれないけど、『横浜は一生懸命来ているな』ということを段々、わかってくれてね。こちらの意思が通じたのか、最後には『横浜に行きます』と言ってくれた。選手にそう言わせるのは、スカウトとして成功なんです。あれだけの選手ですから、もちろん全球団が見に来ていましたが、最終的に競合したのが3球団だったのは、こちらの熱意が伝わったからだったと思います」
「死に物狂いで獲りに行ったことに後悔はない」
指名直後の記者会見では「社会人に進む」と語った松坂だが、結局、西武に入団する。
「待ってくれるんだ、という思いも少しはありました。でも彼は、すぐにプロに入ってよかった。あれだけの投手ですから、鉄は熱いうちに打てで、若いうちからガンガン鍛えなきゃいけない。それでもその後、彼のお母さんと話したときには、『FAの9年なんてすぐですからね』と言いましたが(笑)」
翌年のオープン戦で、稲川は初めて松坂と言葉を交わしたという。
「『頑張れよ』」と声をかけました。『残念だった』なんて、思っていても口には出せませんよ(笑)。もちろん残念でしたが、あの年、死に物狂いで松坂を獲りに行ったことを、後悔はしていません」
●初出:2010年10月14日発売・Number764号「その時、球史が動いた」より
(#4へつづく)
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