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「よっしゃー!」PL学園・福留孝介に拒否された近鉄・佐々木恭介の証言「ぼくは孝介のファンだから」ドラフトのわだかまりを超越した師弟愛
posted2022/10/20 11:04
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
KYODO
「よっしゃー」の雄たけびと、その日、縁起を担いで締めていた赤いふんどしが、佐々木恭介を一躍「全国区」にした。1995年のドラフトである。近鉄バファローズの新監督として、はじめての大仕事であるドラフトで、佐々木は7球団が競合指名したPL学園の福留孝介をみごとに引き当てた。「よっしゃー」は思わず出た勝どきだった。
「あのときは引き当てた興奮で、顔から血の気が引いていくのがはっきりわかったよ。抽選が終わってチームのテーブルまでどうやって戻ったかも覚えていない」
佐々木は15年前を振り返る。
バファローズは最初、福留は指名しないと思われていた。
「スカウトからの報告では、ウチに来てくれる可能性はほとんどないというんだ。でも、ぼくはどうしても欲しかった。PLはバファローズのホーム球場、藤井寺から10分のところにある学校。そこのスターを獲りに行かない手はない。それにぼくは当時のPLの中村順司監督とも面識があり、孝介のプレーぶりは何度も見ていたしね」
塩で体を清め、初めてふんどしを締めた
福留は「高校生の中ではぶっちぎりの存在」。それが佐々木の抱いた印象だった。打球の飛距離、フォロースルーの大きなフォーム、脚力。獲得できれば、必ずチームの支柱になる選手だ。その魅力はスカウトたちの悲観論を吹き飛ばすものだった。
当然、他球団との競合になる。だから抽選に備えて佐々木は万全を期した。
「着るものはすべてドラフト当日におろす新しいもの。風呂に入って塩で体を清めた。友人がくれた勝尾寺のふんどしも持って行くつもりだった」
だが身支度を整えるうちに、ふんどしは締めたほうが効果があるように思えてきた。思い直して締めてみる。生まれてはじめてのふんどしである。