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「やっぱり紗理那はショートが一番いい」古賀紗理那が世界バレー直前に髪を切った本当の理由「かわじい、見守ってくれていますよね」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byFIVB
posted2022/09/28 11:03
キャプテンとしてバレーボール女子日本代表を牽引する古賀紗理那(26歳)。世界選手権を前に、伸ばしてきた髪をバッサリ切った
眞鍋政義監督が、ネーションズリーグで「世界の監督から日本のバックアタックのスピードは何なんだ、と驚かれた」という速さをさらなる武器とし、チームの共通課題として求めるべく、古賀と同じスピードを基準とした。
東京五輪でも共にプレーしたセッターの籾井あきが「紗理那さんは常に一定の助走、リズムで入ってきてくれるので、だいたいこの辺という場所に上げれば決めてくれる選手」と言うように、チームが求めるスピードを「古賀に合わせる」というのは間違った解釈ではない。
だが、人それぞれ筋量やフォームも異なり、経験も違う。何より古賀自身が「何度も何度も繰り返して鍛えた」という成果であり、長い代表合宿とはいえ、一朝一夕ではチャレンジするスパイカーにとっては簡単にクリアできる課題ではない。
特に学生時代から速さよりも高さを活かした攻撃に特化してきた石川真佑や宮部藍梨、宮部愛芽世は「苦戦した」と吐露する。
試行錯誤の中、手本とすべき古賀をひたすら観察する。それでも「どのタイミングで入ればいいかわかりません」とセッターに直談判することもあった、と模索する宮部愛に響いたのは、古賀の何気ないアドバイスだったと明かす。
「監督からは0.8秒でヒットする、と言われてきたので、速いトスを打つことに必死すぎて。どう打てばいいとか考えていなかったんですけど、紗理那さんから『ただ正面にそのまま打つだけじゃなく、ブロックが見えたらストレートにもクロスにも打ち分けられるよ』『助走に入るタイミングは一定にしないと(トスと)合わなくなるけど、空中で打つ場所は自分で変えていいんだよ』と言われて、ちょっと気持ちが楽になりました」
木村沙織の声がけに救われた若手時代
かつて古賀自身も10代で日本代表に選出され、合宿や試合に帯同しても最初は右も左もわからず、求められる技術や戦術に対応することに必死だった。ましてや人見知りで「聞く」ことすら躊躇していた頃、チームの主将だった木村沙織を中心に先輩選手の声がけや気配りに救われた。
時を経て、今度は自分が主将となりまだ日本代表での経験が浅い選手を気遣い、引き上げる。もちろんただの優しさではない。1人1人の意識と技術、できることを増やすのは、チームとしての力を高めるためには不可欠だと考えるからだ。
「たとえばゲーム形式の練習をしている時も、各セットが終わった後に必ずコートで話すようにしています。それぞれが自分で考えられるように『相手のBクイックに何本もやられているけど、どうしたらいいと思う?』と聞いて、短い時間で答えさせる。考えずに指示待ち人間になるだけだと、コートに入った時、その人だけじゃなく周りが苦しい。だから一方的にじゃなく、言わせるし、そのために考えさせる。
どんなメンバーで戦うことになっても、勝つ方法を見つけるには考えないといけないし、そのうえでスパイカーには言うんです。『絶対、セッターを1人にしちゃダメだよ』って。海外勢を相手に戦う時は、高いブロックに対してどこをチョイスするか、頭も使うしストレスがかかる。そこでスパイカーから『私はこれならば絶対に決まる』とアピールできれば、セッターも楽になるじゃないですか。それを1人1人がたくさん持って、表現できるのが強いチームだと思うんです」