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「やっぱり紗理那はショートが一番いい」古賀紗理那が世界バレー直前に髪を切った本当の理由「かわじい、見守ってくれていますよね」
posted2022/09/28 11:03
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
FIVB
気合ではなく、愛。
バレーボール世界選手権に向けた欧州遠征が始まる前日、古賀紗理那はのばしてきた髪を短く切った。キャプテンとして臨む大会への決意表明、と見られることが多いが、ショートヘアにしたかった理由は別にある。
「かわじいが大好きだったショートで、世界選手権、頑張ります」
9月23日に開幕した世界選手権のちょうど1カ月前の8月末、祖父が永眠した。
幼い頃からおじいちゃん、おばあちゃん子だった。中でも「大好きなじいちゃん」とメディアなどで公に話してきた祖父。古賀曰く「かわいいじいちゃんだから、“かわじい”」と嬉しそうに話してきた祖父との別れ。
成人式に向け髪を伸ばすと「ロングもいいね」と細い目をさらに細めながらも、短くすれば「やっぱり紗理那はショートが一番いい」と嬉しそうに笑ってくれる祖父が、何より大好きだった。
そして、くじけそうになる時、嫌になる時。「頑張れ」とは言わずに、原点に引き戻してくれたのも祖父だった。
19年W杯の不調「感覚がしっくりこない」
東京五輪が迫る2019年に日本で開催されたワールドカップ。その前年、18年の世界選手権ではエースとして覚醒した姿を見せていたのとはまるで別人のように、古賀は不調に喘いでいた。
狂った歯車の理由は明確。求められる速さが確立できず、スピードばかりを意識すれば打点が低くなり、通過点が下がれば相手ブロックにつかまる。サーブレシーブでも受数が多い中、レシーブの返球も速さが求められるため、十分な準備ができない状況で攻撃に入らなければならず、力も乗らない。
効果率、決定率と目に見える数字でも不調は明らかで、試合に出てもすぐ交代させられる。試合後のミックスゾーンで語る自身に向けた反省の弁は、いつも不安と不満が溢れていた。
「感覚が全然しっくり来ないし、打てていないのを自分がよくわかっているんです。高さを出さなきゃ、でも速く、と焦るばかりでポイントがつかめない。試合に出ても決まらないからすぐ交代させられるし、そうなると余計、どうすればいいのかわからない。正直、オリンピックのこととか、このままじゃ全然考えられないです」
チーム成績も伴わず、出場機会も限られる。次の代表に選ばれないかもしれない、と大会を終えた後は半ば本気で考えていた。むしろ「それでもいい」と思うことすらあった。
再び前を向かせたきっかけは、思わぬところで生じた。