オリンピックへの道BACK NUMBER
「見慣れない数字だったのでガックシ来た」525日ぶりの実戦復帰、紀平梨花20歳が見せた戸惑いと覚悟「全日本を捨てるのは、ちょっと無理」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2022/09/26 17:01
中部選手権に出場し合計154・49点で全日本選手権の切符を手に入れた紀平。2018年12月の自己ベスト233.12点とは大きく差があるが、本人は…
本来の演技ではない。ただ…
全員が滑り終えてフリーは97・80で7位、総合では154・49点の6位で復帰戦を終えた。
「全日本の切符をつかむことができて、集中とか緊張とか、いい経験ができてよかったです」
ショート、フリーを通じて、武器であるトリプルアクセルはプログラムに含まれず、4回転ジャンプも組み込まれていない。3回転ジャンプ自体、ショートで2種類計2本、フリーで1種類計2本のみと限られた。例えば、2020年の全日本選手権ではショートでトリプルアクセルと3回転ジャンプ3本、フリーで4回転サルコウとトリプルアクセル、そして3回転ジャンプ6本であったことを考えても、構成の難度を大幅に下げての試合であったのは明らかだ。ジャンプのみならず、いつもの繊細かつ行き届いた動作や表現にはまだ達していない印象があった。自身の得点のレベルからすると大きく下回る点数も、本来の演技ではないことを明確に示していた。
それも紀平のこれまで辿ってきた道のりを思えば無理はない。
SP前日にも痛みがあった
4月末~5月初旬に開催されたアイスショーに出演したが、期間中の朝の練習中、ジャンプをした際に足を痛めた。
昨年7月に負った右足の怪我も完全に元の状態に戻っていたとは言えず、「ほんとうに治し切らないと」と判断した。そのため氷上練習をストップせざるを得なくなった。7月の終わりに3日間、取材のために30分滑る機会はあったが、実質的に練習を再開したのは中部選手権の3週間前。約4カ月、氷上練習はできなかった。
練習は再開したとはいうものの、完治していない状態にあり、またショート前日の9月23日にも痛みがあったという。当然、調整は大幅に遅れている。
「トリプル(ジャンプ)を始めてから1週間でした」
何よりも足の状態を思えば、出場しないという選択もあっただろう。実際、棄権することも考えたという。でも、それを上回る思いがあった。
「足のことを思えば、出たくなかったですけど、全日本を捨てるのは、ちょっと無理と思いました」
世界選手権や四大陸選手権に出場できるよう頑張りたいです
全日本選手権を捨てるわけにはいかないという思いは次の言葉に表れている。