マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「若いヤツは、うるさく叱らないとダメなんだ」私が見た“勝ちまくった東洋大監督”の指導現場「ここから先がほんとの取材だろ!」《追悼》
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/09/15 17:00
東都大学野球リーグの東洋大前監督で歴代最多の1部通算542勝を挙げた高橋昭雄氏。9月7日に敗血症のため74歳で死去した
「泣いてたでしょ。それでいいんだ。大学生ぐらいになったら、なかなか泣かないよ。親が死んだって泣かないのだって、いるからね。悔しい涙か、悲しい涙か、情けない涙なのか、どんな涙か。そこまではオレなんかにはわからねぇけど、あんだけ言われて泣けるヤツだったら性根まで腐ってない。きっと伸びるよ」
今、わからなくていいっていうのは、辛いですね。
またしても、わかったようなことを言ったら、
「今、水やって、すぐにツルが伸びるキュウリなんてないでしょ」
ピシャッと返されたことも、懐かしい。
542勝…勝って、勝って、勝ちまくった監督
10年ほど前だったか、高橋監督の「監督40周年」をお祝いする会が盛大に開催された。
大きなホテルのいちばん大きなホールが会場だったのに、野球界の多くの人々とおびただしい数の野球部OBたちで、一時は身動きもとれないほどだった。
奥さまを横に連れて嬉しそうにされている高橋監督のもとに、次々にOBたちがやってきて、監督に祝辞を贈る。
驚いたのは、その時だ。
「おお、松永! 山田に、小林に、おお、小野田も来てくれたのか!」
目の前にやって来るOBたちを、プロで活躍した有名なOBでなくても、いちいちその名前を呼んで迎えている。
東洋大で監督始めて40年。ひと学年20人としても、ざっと800人か。歳月が過ぎて、見た感じが変わっている教え子さんもいるはずなのに。
「かわいいねぇ……かわいいんだよ」
あの言葉を思い出して、こちらのほうがグッときてしまったものだ。
東洋大監督ひと筋46年間。社会人野球・日産自動車の捕手を1年間できり上げて、23の歳で就任した時には、他学の監督にも、選手勧誘に足を運んだ高校の指導者たちにも、全く相手にされなかったという。
それでも、激戦の東都大学リーグで46年間、1部での通算542勝はリーグ歴代最多勝利だ(2017年に退任)。
これでもか……というほど、勝って、勝って、勝ちまくった監督さんだった。お祝いの会に、会場に入りきらないほどのOBたちが集まってきたこと、監督さんのもとに戻ってきたこと……もう1つのかけがえのない「勝利」も間違いなく手にし、たくさんの教え子をこの世に遺して、永眠された。合掌。