マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「若いヤツは、うるさく叱らないとダメなんだ」私が見た“勝ちまくった東洋大監督”の指導現場「ここから先がほんとの取材だろ!」《追悼》
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/09/15 17:00
東都大学野球リーグの東洋大前監督で歴代最多の1部通算542勝を挙げた高橋昭雄氏。9月7日に敗血症のため74歳で死去した
「細かいことを口うるさく、繰り返し、繰り返し言わないとねぇ。ダメなんだよ、若いヤツにはね。何度でも何度でも、同じことをね。言わないとね」
根くらべですね……。
わからないくせに、わかったような合いの手を入れると、例の「横目」でチラッと見られて、黙られてしまう。しばし気まずい沈黙があって、しくじったかな……と思う頃、
「そんなもんじゃないんだなぁ。漆塗りですよ、輪島塗の。あれ、何十回も、何十回も、100回ぐらい繰り返し漆を塗って仕上げるんでしょ。丹精込めてねぇ。そういう感覚だなぁ……」
独りごとのような静かな語りが胸に刺さった。
「うるさいと思うでしょ。でも、うるさいこと言わないと良くならないんだよ。今、わかってくれなくたっていいんだ。ここ(東洋大野球部)を出て、先の人生行って、なんかあった時に、どっかでね。
かわいいですよ、毎日毎日うるさいこと言ってますからね。ほんと、かわいい」
「こっから先が、ほんとの取材だろ」
ちょっと前にどなりつけていた選手たちがボールを追う姿を、穏やかな目で追っている。
「口うるさいことばっかり言ってるオレに、最後まで小言言わせなかったのが、(鈴木)大地(現・楽天)だな。あいつだけは一度も言わせなかった。こっちも一生懸命になって探すんだ、どっか手ぇ抜いてるとこないか。ヘマやってないか。これがとうとう一回もなかった、卒業までね。たいしたヤツだったよ、あいつは」
と、一瞬、目が変わったかと思うと、パチッとマイクのスイッチが入り、一喝された選手が監督室に呼ばれた。
遠慮して部屋を出ようとすると、こっちが先に一喝された。
「こういう場面見とかないで、どうするんだよ! こっから先が、ほんとの取材だろ」
呼ばれて顔色を失った選手が、厳しい言葉で叱責されている。
「お前一人の手抜きが、真剣にやっているヤツらの努力を全部ゼロにするんだ!」
立ちすくんだ選手が、はっきり涙ぐんでいた。