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「自分の殻を破るため」田中希実23歳が海外レースに出場する理由「国内ではカッコよく勝たないと…」「レース前からイライラしてました」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2022/09/16 17:00
ニューヨークでの1マイルレースに出場。好記録で5位となり穏やかな表情をみせる田中希実
イライラの原因は「焦り」にある。
結果を出したい、出さないといけない。田中は自身に大きなプレッシャーをかけているようだ。これまでジュニアから段階を踏んで結果を出していることも自らを追い込む原因になっている。
2018年U20世界選手権の3000mで金メダルを獲得し、その翌年2019年にはドーハ世界陸上に出場。
21歳で迎えた昨年の東京五輪は1500mと5000mの2種目に出場し、1500mでは準決勝で3分59秒19の日本記録を出した。五輪で日本人初の決勝進出を達成、そして決勝では8位入賞という快挙を成し遂げた。
「(東京五輪の際には)シニアで大きい成績を持ってなかったのでそこまで気負わずに、謙虚な気持ちで挑戦できた」
成功体験の裏で恐怖心も…
だが東京での快挙が、田中の心をがんじがらめにしてしまった。
もっと上を目指したい、自分ならできる。
そう思う一方で、結果がでなかったらどうしよう、そんな考えも脳裏をかすめる。
大きな舞台で成功体験をしてしまったために、失敗への恐怖心も生まれ始めてしまった。
「レース前に部屋にいる時に、『前の選手の背中が遠ざかっていったら……』というネガティブなイメージをしてしまうこともある」
今回のニューヨークの1マイルレースの前も「イライラ」は起きた。
「レース前にボストンで練習を積んできて、良い感覚があったのに、試合が近づいてきたらイライラして集中できず、練習をこなせなかった。積み上げてきたことを自分で壊してしまった」
結果を出したいという強すぎる気持ちがイライラに繋がっている
陸上は記録が数字で出る競技だが、練習の成果が必ずしも記録に表れるわけではない。天候やコンディション、レース展開で記録がついてこないこともあるからだ。
そしてトップレベルになればなるほど毎年自己記録を更新するのは難しくなる。