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美女、マフィアのドンにマラドーナ…「史上最もつまらない大会」1990年イタリアW杯の思い出と、ディエゴからの「グラシアス」 

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近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

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photograph byAtsushi Kondo

posted2022/09/20 11:00

美女、マフィアのドンにマラドーナ…「史上最もつまらない大会」1990年イタリアW杯の思い出と、ディエゴからの「グラシアス」<Number Web> photograph by Atsushi Kondo

若き近藤篤さんの写真が採用された『フランス・フットボール』誌の表紙とアザーカット。アルゼンチンは決勝で西ドイツに破れた

 グループBの第3戦、ナポリで行われたアルゼンチン対ルーマニア戦で後半何分だったか、アルゼンチンはディフェンダーのモンソン(のちに彼は決勝の対西ドイツ戦でレッドカードをもらって大顰蹙を買う)がゴールを決めて1−1で試合を終え、首の皮一枚を残して決勝ラウンド進出を決めた。ゴールを決めたモンソンが僕のレンズのちょうど正面にいて、そのモンソンに飛びついて泣きそうな顔で抱きしめたのはマラドーナだった。いわゆる「美味しい写真」である。

 ディエゴのいい写真が撮れたかも! 試合後、僕のW杯参戦を手助けしてくれたブラジル人カメラマンに言うと、彼はそのフィルムを直ちに「フランス・フットボール誌に送れ!」と指示した。なんでかというと、もしその雑誌で写真を使ってもらえると、十日間分くらいの滞在費が浮くほどのギャラがもらえるからだ。

 僕は聞いた。「どうやって送るの?」

 彼は答えた。「今からナポリ駅に行けば、『フランス・フットボール』の編集部までそのフィルムを送り届けてくれる係のやつがいる、そいつに渡せ!」

 笑ってしまうくらいアナログな時代だった。僕は指示通りにナポリの中央駅まで行き、その係の男に現像の指示が書かれた封筒に入ったフイルム数本を手渡した。

美しきディエゴの思い出

 翌週、イタリアのみならずヨーロッパの主要各都市の書店に並んだ「フランス・フットボール」の表紙には僕の写真が使われ、さらにその翌週、例のブラジル人カメラマンから20枚ほどの100ドル紙幣を手渡された。わお!

 そんな感じで僕にとって2度目のワールドカップは過ぎていった。

 あ、そうだ、もうひとつ思い出した。準々決勝、試合後のプレスセンター、廊下で機材を片付けていると、向こうのほうに記者会見に向かうマラドーナの姿を見た。僕は叫んだ。

「Grande Diego!(偉大なるディエゴ!)」

 彼はくるっと踵を返し僕のところまで歩いてくると、右手を差し出してこう言った。

「Gracias amigo」

 今から32年前、史上最もつまらないと言われたW杯だったけれど、こうやって記憶の断片をつなぎ合わせてみると、むちゃくちゃ楽しい時間だったな。


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