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《MotoGP王者の帰還》ホンダ勢トップタイムで再始動! マルク・マルケスがいきなり本気のテストで見せた凄みとは
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/09/09 17:00
約3カ月ぶりのライディングにもかかわらず、いきなり実戦的な内容のテストをこなしたマルケス。マシンの改善はそれだけ急務と言える
「いま、ホンダは困難な時期にいる。彼らは努力しているし、23年シーズンに向けて大きく変化する必要があることもわかっている。他のライダーと戦えるようにするには完璧なマシンが必要だからだ。ただ今回のテストは、大会終了後で路面のコンディションがとても良かったことを考慮しなければならない」
そして、自身の身体についてはこう語った。
「手術の前に比べ、特に左コーナーでは自然な形で腕が動くようになった。でもトレーニングを再開してまだ2週間。(市販車の)バイクに乗って腕の状態を確認してここにきたが、かなりタイトなスケジュールだった。今回僕は大きな手術から復帰して、まずまずのラップタイムを記録することができたが、ほかのライダーはテストとは思えないほど速かった。今回のテストでもっとも重要なことは、まずは自分のコンディションを把握すること。(次戦)アラゴンに出場するかどうかはわからない。このテストを終えて右腕がどう反応するか見なければならないからね」
マルケスは右腕上腕骨の骨折で20年シーズンを棒に振り、21年、22年と完全な状態ではない身体で戦った。同時に絶対的王者を失ったホンダ陣営はどん底の状態に陥り、6月のドイツGPではホンダとしては40年ぶりというノーポイントレースを記録。歴史的大敗を喫したことがレース界の話題になった。
早期復帰は吉か凶か
それだけにマルケスの復活は、マルケス自身はもちろんのことホンダ陣営にとっても待ちに待ったものだった。これまでの経緯を振り返れば、僕は正直、テストに参加するのは早すぎるのではないかと思っていた。MotoGPマシンを操る体力、パワーは並大抵のものではないし、エアロパーツ満載の現在のMotoGPマシンは、以前に比べて取り回しに多くの体力を必要とするからだ。
3度目の手術の後、どうしてマルケスの腕の状態が悪くなり、4度目の手術で30度も腕を回転させて骨をつなげなければならなかったのか。自身も「これがラストチャンス」と捉えているだけに、来季に向けてじっくり右腕の状態を戻すことにしてもよかったのではないか。今回のテスト参加は、マルケスにとってもホンダにとっても実に有意義なものだったのだろうが、レース復帰の時期だけは間違えないでほしい。史上最年少で最高峰クラスのチャンピオンになり、シーズン最多勝利など多くの記録を樹立し、6度のチャンピオン獲得。まだまだタイトルを獲得できると期待していたが、20年のスペインGPの怪我がすべてを狂わせた。
サッカー大国ブラジルでは、「怪我をしないのも才能のひとつ」と言われていると聞く。2輪の世界では、ウエイン・レイニー、ケビン・シュワンツ、ミック・ドゥーハンなど、怪我で引退していった名選手は数多い。レース界の宝とも言えるマルク・マルケスには、「完全復帰」のチャンスを逃してほしくないと願うばかりである。
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