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ボクシングPRESSBACK NUMBER
死にかけたボクサーはなぜ芸能界に? 俳優・赤井英和(63歳)が今も第一線で活躍できる理由「半沢直樹のときもNG、多かったなぁ…」
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byShiro Miyake
posted2022/09/08 11:03
プロボクサー引退後、俳優として再起を果たし、30年以上に渡って活躍する赤井英和。出世作『どついたるねん』をめぐるドラマに迫った
「いや、それはありませんでした。超一流の名優に対して失礼な話なんですけども、当時の私は、原田さんのことも知らなかったもんですから(笑)。『原田芳雄さん、ですか……? 初めまして』みたいな感じです。自分のことで精一杯で、周りのことを気にしている余裕もない。毎日深夜まで撮影して、帰ってセリフ頭に叩き込んで、ヤクルト1杯分の水飲んで、また早朝から撮影して……。クランクアップのあとは、泥のように眠りました」
さらに『どついたるねん』には、現役最後の試合で対戦した大和田正春もゲスト出演を果たしている。自身を引退に追い込んだボクサーとの共演、さらにストーリーにも現実の両者の試合と「その後」が色濃く反映されていたが、赤井の反応はさっぱりしたものだった。
「ゴングが鳴ったら殺しに行くけど、試合が終わったら友達みたいなもの。まったく恨みもなければ、因縁もなにもありません。今まで戦った誰に対しても、同じ気持ちです」
『どついたるねん』より厳しい現場はなかった
低予算ゆえ封切り当初はテントでの上映となった『どついたるねん』だが、俳優陣の熱演と迫力あふれるボクシング描写が口コミで評判を呼び、第32回ブルーリボン賞作品賞のほか、『キネマ旬報』ベスト・テンでも日本映画の第2位に選ばれた。俳優・赤井英和も複数の映画賞で新人賞に輝き、本格的に芸能界に進出していくことになる。
現役引退後のくすぶり続けた日々を清算し、俳優としての飛躍のきっかけになった同作を、赤井自身はどのように受け止めていたのだろうか。
「1989年の4月に東條会館でやった試写会を、監督と一緒に一番後ろで見ました。ブツ切れに撮った映像が“映画”になっているのを初めて目にして、『監督がああいうふうに言ってたのは、こういう意味やったんか』『だったら俺はこうすればよかったやないか』と……。今やったらもっとうまく表現できるのに、もっとこの仕事をやってみたい、と思いましたね」
ボクシングと俳優。まったく異なる仕事ではあるものの、赤井のスタンスは変わらない。「とにかく現場、現場で命がけ。目の前のことを必死でやっていました」――それがケンカに明け暮れた中学時代から地続きの、赤井英和という人間の性分なのかもしれない。
「もう30年以上この仕事をさせてもらってます。けど、『どついたるねん』のハードさに比べたら、アラスカに行ってシロクマの真横をスノーモービルで走るのも、アフリカでゴリラと生活するのも全然なんともない。いまだにドラマではよくNG大賞をもらってますけどね(笑)。『半沢直樹』のときもNG、多かったなぁ……」