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死にかけたボクサーはなぜ芸能界に? 俳優・赤井英和(63歳)が今も第一線で活躍できる理由「半沢直樹のときもNG、多かったなぁ…」 

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曹宇鉉

曹宇鉉Uhyon Cho

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photograph byShiro Miyake

posted2022/09/08 11:03

死にかけたボクサーはなぜ芸能界に? 俳優・赤井英和(63歳)が今も第一線で活躍できる理由「半沢直樹のときもNG、多かったなぁ…」<Number Web> photograph by Shiro Miyake

プロボクサー引退後、俳優として再起を果たし、30年以上に渡って活躍する赤井英和。出世作『どついたるねん』をめぐるドラマに迫った

「阪本さんは『赤井くん、まだプロデューサーも役者もなにも決まってへん。これは俺と2人だけの話やぞ』と言うんですけども、もう嬉しくてね。明くる日には、周りの人はみんな知っていましたね(笑)」

 同時に、阪本は赤井にある条件を提示した。

「阪本さんは『赤井くん、その体ではカメラは回されへんからな。まずは痩せることや』と。わかりましたと。酒ばかり飲んでいたんで、当時の体重は85kgくらい。それを短期間で60kg台まで落としました。もう、まったくの絶食です。『今日は朝からヤクルト1杯分の水だけや』みたいな減量で、あれは現役時代よりもキツかった」

ラブホテルの看板を全力で殴り「固いやないかい!」

 映画『どついたるねん』のクランクインは1989年2月。それまで赤井が俳優らしい活動をしたのは、1988年に『またまたあぶない刑事』にゲスト出演したきりだ。同作では「セリフもなく、エキストラみたいな役だった」と本人が明かすように、演技の経験はほぼ皆無。にもかかわらず、『どついたるねん』でいきなり主演を任されることになった。

「ご覧いただいたらわかると思いますが、『どついたるねん』はワンシーン、ワンカットなんですよ。本当に、NGをどんだけ出したか……。テープも20本、30本使うのは当たり前で、スタッフの人も大変だったと思います。毎日朝早くから始まって、撮影が押して押して、深夜までかかってしまう。ワンシーン撮るのにテープ何本も使うてたら、そら時間もかかりますわな」

 赤井が演じた主人公・安達英志は、試合で脳にダメージを負い引退した元人気ボクサーという、本人をそのまま投影したようなキャラクターだった。カッとなりやすい直情的な性格で、周囲とは衝突してばかり。怒りにまかせてラブホテルの看板を裸拳で繰り返し殴打するシーンでは、阪本監督から厳しい演技指導の声が飛んだ。

「阪本さんはずっと『それじゃ気持ちが伝わらへん。今の10倍、20倍感情を出せ!』と言うてました。看板のシーンでは、カメラがOK出すまで、看板が凹むくらい殴り続けろと。テストなしで、いきなりです。ほんでいざ殴ってみたら、『固いやないかい! なに言うてんねん!』と。力いっぱい殴ってもちょこっと凹むくらいで、拳に傷が残りましたわ(笑)」

 体当たりで演技に挑んだ赤井の脇を固めたのは、謎めいたトレーナー・左島役の原田芳雄や、ジムの会長を演じた麿赤兒といった名優たちだ。錚々たる顔ぶれのなかで主演を張ることへの重圧はなかったのだろうか。

【次ページ】 『どついたるねん』より厳しい現場はなかった

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