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「野村さんに手紙を書きたいんやけど」清原和博が巨人・番記者に相談した野村克也監督への想いと銀座の夜「久しぶりに、会わないか?」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2022/09/07 11:19
巨人時代の清原和博
だが、どうしても筆をとる気になれなかった。自分のことさえままならない人間がどうして先人に手紙など書けるというのか。一体何を書けばいいのか。閉じこもった部屋でそればかり考えていた。
”清原番”への電話「野村さんに手紙を書きたいんやけど」
そんなとき、心を許した記者の顔が浮かんだ。打った夜も打てなかった夜も、試合がある日もない日も、その記者は清原についてきた。スタジアムの薄暗い通路で問いを投げ、清原の心に迫ってきた。彼は自分のことを巨人軍担当の記者ではなく、「清原番」だと表現することがあった。清原はその言い回しが好きだった。
鬱々とした部屋の中で清原は携帯電話を手に取った。記者はスリーコールほどで通話口に出た。昔からそうだった。彼はどんな時間でもすぐに電話を取った。
「野村さんに手紙を書きたいんやけど、でも......何を書けばいいのか分からん。お前、手伝ってくれないか?」
そう打ち明けると、記者は言った。
「いいですよ。じゃあ、昔のようにやりましょうか」
記者は清原の心にひとつひとつ問いを投げ、清原はそれに答えていくうちに何を書くべきかを整理していった。
数日後、野村への手紙をしたため終えると、清原はもう一度その記者に電話をかけた。
「いろいろありがとうな。それで......お前に礼がしたいんやけど、久しぶりに会わないか?」
場所は銀座にした。巨人軍のユニホームを着ていたころによく通った街だった。
<続く>
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