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「羽生結弦くんを中心に撮ろうとあの時、決めました」10年以上撮影のカメラマンが語る転機となった1枚「あの瞬間、私はソチ五輪を撮れた!と…」
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph bySunao Noto(a presto)
posted2022/08/30 18:08
10年以上にわたって羽生結弦を撮影してきた能登直と『Number』で撮影を続けてきた榎本麻美が「被写体としての羽生結弦」について語り合った
榎本 シャッターを押した瞬間に「撮れた!」と思えた写真でした。私は他のカメラマンが多くいる正面ではなく、正面の反対の真裏のポジションで上から撮っていました。演技が終わり、正面近くでは表彰式後の撮影などが行われていた状況でした。お客さんもいなくなってきて、自分も階段で下に降りてきていたのですが、日本雑誌協会(雑誌各社が会員の業界団体。五輪では雑誌社の各カメラマンがこの協会の代表という形で撮影を行う)のカメラマンは正面で撮っているし、そこに行ってもしょうがない。自分がいる場所からはだいぶ遠目で「どうしよう」と思って、カメラを構え立ち尽くしている状況でした。ただ、その瞬間に羽生さんが突然、誰かを見つけてなのか、笑顔でこちら側に向かって走ってきて。その走ってくる姿に夢中でシャッターを切ると、完璧にはまってました。
能登 この角度から、頭の後ろで日の丸が見えるように旗が広がっている。あり得ない構図だと思うんです。
榎本 ちょうど、はためいた瞬間にこの表情で走り出してくれたので。それまで国際大会で優勝して国旗を持つということはあったんですが、うまくはためかせるのが難しく、なかなか写真としても撮れていなかった。それが五輪の時にそういう場面に遭遇し、ラッキーと言えばラッキーなんですが、それを取り逃さなかったので、満足している1枚です。
ポジションにはいつも頭を悩ませる2人
能登 国旗の表面が見えて、しかもこの表情と一致していてね。
榎本 笑顔の感じも心の底から喜びを感じているような、笑顔が弾けていて、それも印象深いです。ショート、フリーの演技の時は正直、「これだ!」という1枚は撮れていませんでした。でもこの1枚で「私はソチ五輪を撮れた!」と思えました。
能登 僕はこの時、キス・アンド・クライ(演技後に選手が結果発表を待つ場所)側にポジションを取っていて、勝つような演技ができて、喜ぶ顔が撮れたらと思っていました。ただ、この写真は榎本さんがいるところでなければ撮れなかった。
榎本 ポジションは難しいですよね。この時に限らずですが、いろいろな制限や狙いがある中で、撮る前も待ちながら「果たしてここが正解なのだろうか」と頭を悩ませています。
能登 始まってからも、撮り終わってからもいつも考えてしまいますね。
榎本 この写真は、『Number』では使ってほしい見開きで使われていたので嬉しかったですね。五輪期間は能登さんも同じ日本雑誌協会のカメラマンとして入っていて、Number編集部には能登さんのお写真も送られてきます。その構図を見ていると、雑誌の誌面として使われることも意識していてデザイナーのことを考えて撮っていて、勉強になります。