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「羽生結弦くんを中心に撮ろうとあの時、決めました」10年以上撮影のカメラマンが語る転機となった1枚「あの瞬間、私はソチ五輪を撮れた!と…」
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph bySunao Noto(a presto)
posted2022/08/30 18:08
10年以上にわたって羽生結弦を撮影してきた能登直と『Number』で撮影を続けてきた榎本麻美が「被写体としての羽生結弦」について語り合った
能登さんの1枚目は…?
能登 この写真は東日本大震災から間もない2011年4月に神戸で行われたチャリティーアイスショーで撮ったものになります。氷に出る直前、ちょっと天井のほうを見上げて、なんとも言えない表情をしているなとファインダー越しに見ていたんです。自分も故郷仙台から神戸に来ている状況だったので、いろんな思いがあって、ここに来ているんだろうな、と想像しました。練習がなかなかできない中で、このアイスショーで1曲滑りきった姿を見て、今後は結弦くんを中心に撮影のスケジュールを組んで撮っていこうと決意しました。
榎本 貴重な1枚ですね。そもそも能登さんが最初に羽生さんを撮ったのはいつになるんでしょうか?
能登 2007年、仙台であったジュニアの大会が結弦くんを撮った最初で、フィギュアスケートの競技写真の撮影も実はそれが初めてだったんです。当時はジュニアより下のカテゴリーから出ているのにすごい子だなという印象でした。その後もフィギュアスケートを継続的に撮影していて、写真のアイスショーは東日本大震災の後に初めて開かれたアイスショーでした。当時、自分は仕事がすべて止まってしまっていて生活がままならない中でこれからどうなるんだろうという感覚で……。ただ、年下で同じく被災している結弦くんがすごい立派に映ったんですよね。
榎本 写真を見るとアイスショーとは思えないくらいリンクサイドが明るいですね。
能登 この会場では通常のアイスショーとは異なり、定常光で明るくなっていて、氷に入る時からなんとなくカメラを構えていました。そしたら、結弦くんがちょっと上の方を見上げて、その表情がなんとも言えず、シャッターを切っていて……。普段のアイスショーだったらあまりない環境、状況だったのでこういう表情が見れたという1枚ではあるのかなと思います。榎本さんの1枚目も見せてください。
シャッターを押した瞬間に「撮れた!」と思えた
能登 (写真を見て)ああ、これはやられたな、と思いました。これはずるい。
榎本 これは我ながらよく撮れたな、と(笑)。
能登 この喜びに溢れた表情を上から撮り、しかも日の丸を背負っていてオリンピック感が1枚で表現できているというのがね。