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米航空機事故で犠牲になったフィギュア世界王者夫婦が一人息子に遺した“最後のメッセージ”…シシコワ&ナウモフの功績を振り返る
posted2025/02/04 11:04

1月30日、航空機事故によって亡くなった元ペア世界チャンピオンのエフゲニア・シシコワさんとヴァジム・ナウモフさん
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田村明子Akiko Tamura
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AFLO
米国東海岸の1月29日の夜、首都ワシントン上空でアメリカン航空の民間機と軍用ヘリコプターが衝突し、両機に搭乗していた67人が全員死亡という痛ましい事故が起きた。このアメリカン航空5342便は、26日に終了した全米フィギュアスケート選手権の開催地カンザス州ウィチタ発で、首都ワシントンのレーガン空港に着陸直前にブラックホークに衝突してポトマック川に墜落した。
次々と速報で詳細が流れ、犠牲者の中にフィギュアスケート関係者が多数いたことが判明。全米選手権後に開催された若手育成の強化合宿に参加した選手、コーチ、その家族28名が乗っていた。
選手たちはいずれもジュべナイル、ノービス、ジュニアの子供たちで、最年少は11歳という若い命が奪われた。
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犠牲者の中にロシア人の元世界チャンピオンが2名含まれることが発表されると、「まさか」という思いで、血の気が引いた。現在アメリカでコーチ活動をしているロシア人の元世界チャンピオンは、片手では数えきれないほどいる。だが全米に行っていて、特に「2名」というところが心に引っかかり、胸騒ぎがした。
「ジェーニャとヴァジムは無事?」と関係者にメールを打つ。
「あの機に乗ってたようだ」そう返答が戻ってきた時、「ああ……」と思わず声が出た。
幕張世界選手権のペアチャンピオン
エフゲニア・シシコワとヴァジム・ナウモフは、どちらもレニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれのペアスケーターだった。
彼らが優勝した1994年幕張世界選手権は、筆者が記者として初めて取材した世界選手権でもある。女子は佐藤有香さんが優勝、男子は鍵山優真選手の父、鍵山正和氏が6位に入賞した年だった。
SPは紫の衣装でサンサーンスの「ロンド・カプリチオーソ」、フリーはシュトラウスの歌劇「こうもり」から。特によく揃ったフリーレッグが美しく、サイドバイサイドスピンもぴったり揃う息の合ったチャーミングなペアだった。