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「羽生結弦くんに思わずシャッターを“押させられた”」五輪3大会撮影のカメラマンが語る思い出の1枚「北京五輪で特別に演じてくれた『SEIMEI』が…」
posted2022/08/30 18:09
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph by
Asami Enomoto
その羽生と同じ仙台出身で、10年以上にわたり撮影を続けてきた写真家・能登直と『Number』で羽生の表紙写真を何度も撮り続けてきた文藝春秋写真部の榎本麻美が「印象に残る写真ベスト5」、「被写体としての羽生結弦」というテーマで語り合った。<全3回の2回目/続きは#3、前回は#1へ>
榎本 そろそろ2枚目にいきましょうか。能登さん、どうぞ。
思わずシャッターを“押させられた”
能登 2012年フランス・ニースで行われた世界選手権、初出場で3位、銅メダルを獲得した時の表彰台での写真ですね。この時は何も声をかけずに目線をくれたんです。僕が初めて結弦くんを撮ったときも下のカテゴリーからジュニアの大会に出て表彰台。このときも初めての世界選手権でいきなり表彰台に乗って、そのすごさを改めて感じた大会でした。この時、ショートでは成績が伸びず7位。フリーの演技が始まって撮りながら「巻き返しがすごい」と感じて、思わずシャッターを“押させられた”という感覚は残っていますね。仙台のリンクが使えなくなって、全国各地を転々としながら過ごしたシーズンでこのような結果を残すのかと感嘆した、シーズンの締めくくりの1枚ですね。
榎本 羽生さんの取材や撮影をされている方で、この時の『ロミオとジュリエット』が記憶に焼き付いているという方、多いですよね。この頃の写真はどこか幼さも残っていて見ていて新鮮です。こういう時期があったなと思える写真、いいですよね。実は私の次の写真も少し「時期」を感じる写真なんです。
榎本 初めてポートレートを撮った時の1枚で、NumberMVPを渡しに行った時のものです。この写真で好きなのは、実は顎のあたりについている絆創膏なんです。中国杯でケガをした後、NHK杯の時に撮ったので、その“傷痕”が残っている時期の撮影でした。本人はもしかしたら、顔に絆創膏があって嫌かもしれないですが、顔つきの感じもこの時期の羽生さんだな、と思える写真なんですよね。
能登 たしかに。
榎本 撮影の最初はMVPの盾を手に、こちらの意図を汲み取ってニッコリ笑顔を見せてくれていました。強い表情も撮りたくて、最後に私の方から「キリッとした表情もください」と言ったら、すぐ表情を決めてくれて、それがすごいかっこよかった。羽生さんは被写体としてフワッとした質感という印象なんですが、その印象と逆の硬い光を当てるのが羽生さんには似合うと思っていて、強い意志のあるアスリート感、それがうまく表現できた1枚かなと思っています。
能登 8月10日にあった各社取材時間5分のSharePracticeの撮影で、スポニチの小海途(良幹)くんやスポーツ報知の矢口(亨)くんもキリッとしたアスリートらしい姿を撮影しているんです。アスリートとしてかっこよく撮りたいと思うからこういう絵になると思うんですけど、僕はこういう絵はないんですよ。アスリートだとは思っているんですけど、親戚のおじさん的な感覚があるから、そういう方向性では撮りたくても撮れないんですよね。
「あざといな~」って言われていましたよね(笑)
榎本 逆に私は距離がある形なので、今回はどういう感じですか?と羽生さんが聞いてくれて、こういうふうに撮りたいと1回1回やりとりをして撮る感じですね。