フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「非常に危険」の声も…ナゼ欧州王者は“禁止技”バックフリップを使った? あの先駆者ボナリーが語る懸念「大怪我した選手を大勢知っている」
posted2024/01/18 11:01
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
JIJI PRESS
禁止でもバックフリップを演じた理由「観客のために」
シャオ・イム・ファがこの技を試合で演じたのは、実は昨年10月の上海トロフィーに続いて2度目のことだ。やはり上海でも優勝したものの2ポイント減点を受けていた。振付師のブノワ・リショーは、こう説明する。
「シーズンの始めに、フリーでバックフリップをやったらどのくらいの減点になるのかチームで検討しました。アダムは常に新しいことに挑戦し、このスポーツを進化させたいと思っているんです」
欧州選手権のフリーでバックフリップを演じた後、シャオ・イム・ファはこう感想を述べた。
「エキシビションでやるより、フリーでやる方がエネルギーは使います。でも調子が良かったので、試合だったけれど、観客のためにやりました」
“危険な技”として1976年に競技で禁止された経緯
シャオ・イム・ファがバックフリップを入れたのは、ジャンプを全て終えた後のコレオシークエンスの部分である。それぞれの選手が得意な技、スプリットジャンプやスパイラルなどを入れているが、シャオ・イム・ファはそこにバックフリップを加えたのである。
「減点されることはわかっていたけれど、この技を再び競技に戻して、スポーツをプッシュしたかったんです」
シャオ・イム・ファは欧州選手権の会見でそうコメントした。
彼が言うように、実はバックフリップはかつて禁止されていなかった。と言っても合法だった当時、試合で演じた選手は一人だけである。1976年の全米チャンピオン、テリー・クビカが1976年にインスブルック五輪と世界選手権で成功させた後、危険な技として競技では禁止になったのだ。
だがその後も佐野稔氏をはじめ、ロビン・カズンズ、スコット・ハミルトン、ブライアン・オーサーなど往年のスターたちによってアイスショーのハイライトとして演じられてきた。近年ではカナダのキーガン・メッシング、アメリカのネイサン・チェンなどもエキシビションで見せている。技としては決して珍しくも、目新しいものでもない。