濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「ビューティ・ペアを超える」スターダム中野たむ&なつぽいが目指す“女子プロレスの王道”「夢は武道館で単独ライブ」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/08/27 11:04
タッグ王座「ゴッデス・オブ・スターダム」を戴冠し笑顔の中野たむ(右)となつぽい
「チャンピオンのFWCはテクニックもあるし阿吽の呼吸で闘える。私たちはケンカもするし試合でも息が合わない場面が多々あります。それでも勝てたのは、お互いを信じてたからなのかな。なっちゃんとなら大丈夫、たむとなら大丈夫って思うことができた」(たむ)
「試合の中でたむちゃんと息が合う瞬間を何度も感じたんですよ。闘いながらこれからの可能性が見えた気がしました」(なつぽい)
なつぽいは「甘えられるお姉ちゃん」
序盤はチャンピオンチームが攻勢。タッグとしての熟練度が違うように見えた。だが試合が進むにつれ、たむとなつぽいの動きも目立ってくる。お互いのピンチを救出し、2人同時の場外ダイブ。コーナーにも一緒に登ってたむのヒザからなつぽいがフェアリアル・ギフト(側宙式ボディプレス)という連続攻撃も見せた。ジャーマン・スープレックスも同時に決め、最後はなつぽいがコグマへのフェアリーストレイン(クロスアーム式スープレックス)で3カウントを奪った。
場外同時ダイブの際、たむとなつぽいは手を握り合っていた。倒れたパートナーの手を取って起こしたり、相手の攻撃から逃れようとするパートナーの手を掴んでアシストする場面も。葉月とコグマのような阿吽の呼吸はまだないが、だからこそ目を見て、手を差し伸べ合って、チャンピオンの“タッグ力”と伍していったのだろう。たむは試合直前のエピソードを語ってくれた。
「試合の日は精神的に不安定で、リングに上がっても、不安で怖くて手が震えてたんです。思わずなっちゃんの手を掴んで“大丈夫かな”って聞いたら“絶対、大丈夫だよ”って言ってくれたんですよ。お姉ちゃんみたいでした、なっちゃんが。頼れる、甘えられるお姉ちゃん。
最近の私はずっと、コズエンのリーダーとして“背中を見せなきゃ”、“強くてカッコよくて自信のある存在でいなきゃ”と思ってました。だけどなっちゃんには“怖い”とか“私には無理かもしれない”という気持ちもさらけ出せる」
たむにとってタッグ王座は“トラウマ”だった
昨年、白いベルトを長期にわたり防衛。たむは団体の“顔”の1人になった。だがどれだけ成功しても、タッグ王座は「トラウマ」だったと言う。それはタイトルマッチで1度も勝てていないという理由だけではなかった。
かつて、たむは岩谷麻優の正パートナーになりたかった。だが岩谷は別の選手とベルトを巻く。星輝ありさとのタッグではリーグ戦で優勝したものの、やはりベルト獲得はならなかった。星輝はケガにより道半ばで引退。それからというもの、タッグ王座への道に関しては無意識に避けていたような気がするという。
過去の挫折を告白するツイッターの連続投稿を見て感じたのは「中野たむほど成功した選手でも、トラウマを抱えているものなのか」ということだ。たむにそれを伝えると、意外そうな顔をした。彼女自身は、トラウマがあって当然だと考えていたのだ。
「選手はみんなそうだと思います。他の部分でどれだけうまくいっても、挫折した経験や諦めてしまったものについては、そのこと自体を乗り越えないと、ずっと苦手意識が付きまとうんです。私の場合は、それがゴッデスだった」