濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「ビューティ・ペアを超える」スターダム中野たむ&なつぽいが目指す“女子プロレスの王道”「夢は武道館で単独ライブ」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/08/27 11:04
タッグ王座「ゴッデス・オブ・スターダム」を戴冠し笑顔の中野たむ(右)となつぽい
「プロレスの大会でも歌いたい」
たむはもともとアイドル活動をしていた。「歌って踊る」という表現は、だからキャリアの中での一種の“忘れ物”だった。プロレスで活躍すればするほど、それは「忘れかけた夢」になっていた。
「でも挫折したことは間違いないんです。諦めて、忘れていた道。それが今になって、巡り巡って拓けてくるなんて人生面白いなって(笑)」
そうなると、やりたいことが次々と頭に浮かんでくる。なつぽいが「あれやりたい、これもやりたい」と盛り上がって、それを整理していくのがたむの役割だそうだ。
「その辺のバランスは取れてるんですよ(笑)。ビューティ・ペアもそうでしたけど、プロレスの大会でも歌いたいですね。スターダムだけじゃなくて、11月20日の(新日本プロレスとスターダムの)合同興行でも。女子プロレスを広めるのが目的なので。路上ライブとかリリイベ(リリースイベント)もやってみたいです。場所はタワーレコードがいいな。そしてやっぱり、武道館はアイドルの聖地ですから」(たむ)
「アイディアが無限に湧いてくるんです」
昨年3月、たむはスターダム日本武道館大会のメインイベントで勝利している。アイドルとして立てなかった武道館の舞台にプロレスラーとして立つことができたと、たむは感動していた。そこからさらにスターダムは大きくなり、なつぽいというパートナーと一緒にいることでたむの夢も変わった。
「今度はアーティストとして武道館単独ライブをやって、スターダム(の興行)を東京ドームに連れて行きたい」
夢の上方修正。「2人で話しているとアイディアが無限に湧いてくるんです」とたむは言った。革命という言葉も大げさには感じていない。それはビューティ・ペアという偉大な先達、いわば“歴史”を射程に入れているからだ。アーティストデビューは歴史を受け継ぎ、歴史と闘う行為なのである。
朱里vs高橋奈七永も“歴史との闘い”だった
実を言うと、この8.21名古屋大会は“歴史との闘い”がテーマになっていた。メインイベントでは“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダム王者の朱里が、フリーのベテラン高橋奈七永に勝利している。“女子プロレス界の人間国宝”とも言われる高橋は、スターダム旗揚げメンバーであり初代ワールド王者。なおかつ業界の源流である全日本女子プロレスの最高峰、元祖“赤いベルト”ことWWWA世界シングル王座の最後のチャンピオンでもある。
戦前、高橋は現在のスターダムを「生ぬるい」と批判。それが許せなかったという朱里にとっては、今のスターダムが最高であり最強であると証明するための勝利でもあった。
「もちろん、負けるんじゃないかという不安は今でもあります。でも最高、最強と言うことで、もっと強くなれる。自分を追い込んだほうが力が出るタイプなので、これからもあえて言っていきたいです」