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長谷部誠38歳「僕から監督に信頼の念を送る。その結果…」ブンデス16年目でも“スーパーサブ・リベロ”でいられる心の成熟
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byAlex Grimm/Getty Images
posted2022/08/27 17:01
ブンデス16年目を迎えた長谷部誠。今季も戦力だが、現地で取材する記者は“監督的な威厳”すら感じることがあるという
試合前の長谷部のルーティンは決まっている。スタジアム内からピッチへと続く階段を登りきり、両手を上にかあげてサポーターたちへ拍手する。
メインスタンドからバックスタンドまで小走りして、再びスタンドのファン・サポーターへ挨拶。それが終わるとダッシュ、ステップと続けて自らの身体の感触を確かめ、パートナーと組んでボールを使用したウォーミングアップに勤しむ。長谷部の佇まいは日本にいた頃と何ら変わらない。闘志を内に秘めつつ、黙々と“戦”"の準備をする。スターティングメンバーでもベンチスタートでも、その所作は同じだ。この日のバイエルン戦は控え組だったが、良い意味で感情の起伏がうかがえない。
最近の長谷部から感じる“監督的な威厳”
キックオフ直前、アイントラハトのゴール裏サポーターが発煙筒を焚いて周囲が白く煙った。バイエルンの先制点となったヨシュア・キミッヒの意外性あるグラウンダーの直接FKゴールはあるいは、GKケビン・トラップがサポーターの焚いた煙で視界を遮られたからだったのかもしれない。
試合の結果は1-6でホームのアイントラハトが惨敗。鎌田大地はゴールライン外でウォーミングアップするだけで試合出場が叶わず。長谷部はリベロのレギュラーポジションを掴んだトゥタが軽度の負傷で不安を抱えているため、試合終盤の81分に出場した。
5人目の交代選手としてジャージを脱いでベンチを出た長谷部がサイドラインを跨いでピッチ内へ入るまでには多少の時間を要した。ゲームが途切れずにインプレーが続いたからだ。
約2分程度の間、それでも長谷部は小刻みに身体を動かして即時対応できる準備を整えていた。その際、時に味方を鼓舞するように手を叩き、時にはなにやら声を上げてもいた。今季のチームキャプテンは昨季に引き続きMFセバスティアン・ローデだが、チーム最年長の長谷部も仲間から当然リーダーと認識されている。それに加えて最近の長谷部はUEFAの指導者ライセンス取得にも勤しんでおり、監督的な威厳も漂っているように感じる。
長谷部の表向きの所作や振る舞いは若き頃と変わらない。しかし、その実情は異なっている。内面の彼は以前と比べて明らかに変容を遂げている。幾多の経験を積み、人生の辛苦も歓喜も味わった長谷部は今、成熟した人物としてここにいる。
インタビューで語っていた自身の境遇
今年4月に行ったNumber本誌のインタビューで、長谷部自身はスターティングメンバーから外れることが多くなった最近の自らの境遇についてこう語っている。