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長谷部誠38歳「僕から監督に信頼の念を送る。その結果…」ブンデス16年目でも“スーパーサブ・リベロ”でいられる心の成熟
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byAlex Grimm/Getty Images
posted2022/08/27 17:01
ブンデス16年目を迎えた長谷部誠。今季も戦力だが、現地で取材する記者は“監督的な威厳”すら感じることがあるという
「ここ数年はチームの中で僕が最年長選手で、監督が僕を気遣う雰囲気も感じるんです。その上で、今の僕は監督に対して最初から信頼を置くようにしています。まだ何もコミュニケーションを取っていない状況から、まずは僕から監督に信頼の念を送る。その結果、もし自分が試合に出られなくても、その信頼の軸を如何にぶらさないでいられるかにチャレンジしている。そのような関係性を続けていると、たとえ自分が試合に出られないときでも気持ちが楽になれるんです」
「人を信頼することで自身の成長を促すことができる」
アイントラハトのオリバー・グラスナー監督は長谷部をリベロの2番手、そしてボランチでは4番手、あるいは5番手として認識しているように思える。20代の長谷部ならば絶対に承服できない立場だが、今の彼は新たなる境地に達している。
「基本的に相手の考えを変えることが難しい中で、人を信頼することで自身の成長を促すことができる。その中で何かを学んでいる感覚はあります」
ピッチに立ってから数分後、新進気鋭のバイエルンMFジャマル・ムシアラの突破を許した長谷部は懸命に追走したが追いつけなかった。致命的な6失点目が決まり、ほどなくして試合が終わった。
大量失点で“盟主”に完敗しても、アイントラハト・サポーターは約10分間に渡ってチームにコールを送り続けた。熱狂的な空間を抜け、長谷部が階段を降りてスタジアム内のミックスゾーンへ入ってくる。おもむろに前方を見て私の姿を視認すると、「来ていたのね」とばかりに少しだけ身体を仰け反らせた。
おどけたような彼の姿を見て、私は18歳の長谷部誠に初めて話しかけたときのことを思い出していた。
<#2/後編につづく>