コンタクトレンズをめぐる“駆け引き”

――道具の進化といえば、コンタクトレンズも……。

「それよ。コンタクトレンズの進化いうのも凄いわな。昔はハードレンズだったからね。小さな石や砂が入ってきたら目にめっちゃ傷がつくけん。試合中に目の前が霞がかってしょうがない。それにね、目にぐっと力を入れたらポロっと落ちるのよ。今と違って高いから失くすわけにはいかないでしょ」

　達川氏と言えば、現役時代の公式戦中にコンタクトレンズをなくして試合が中断した珍プレーでも知られる。ホームベース付近に両軍の選手たちが集まってのドタバタの大捜索は、「珍プレー」でも何度も取り上げられた。視力が悪く、広島商業高1年の秋からコンタクトレンズをつけてプレーしていたが、プロ入りを目指すにあたり評価が下がるのを恐れてひた隠しにしていたという。

「（東洋）大学4年生までは誰にもバレてなかったよ。いっつもしかめっつらしていたけどね。痛いしまぶしいから。でもプロに入ってからは大洋の遠藤（一彦）にバレてさ。打席で構えるとあいつ、（球を）長く持ちよる。ぐっと見つめているからワシの目が痛くなって、涙がたまってきて“タイム！”ってね。あいつ自身もコンタクトしてたから弱点を知っとるんよ」

　弱り目に祟り目。人目には分からない駆け引きがあったというわけだ。

「メガネもコンタクトも今は性能が良くなってね。あの頃、今のワンデー（使い捨て）が出来ていたらワシの成績は1.5倍くらい上がってるよ！　ワッハッハ」

「ささやき戦術」の真相

　赤ヘル軍団の「扇の要」としての達川氏といえば、打者を翻弄する「ささやき戦術」が有名だ。故・野村克也氏の現役時代さながら、巧妙な話術で打者の集中力を逸らす駆け引きとして知られる。

――代名詞にもなっている「ささやき」についてお聞きしたいのですが……。

「よくそんなこと言われるけどね、ささやいたことなんか1回もないよ。これはもう間違いない。神に誓って、ない！」

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