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“監督不在の野球部”が17年で甲子園準V…下関国際・坂原監督の「弱者が強者を飲み込む野球」はいかに生まれたか?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/23 11:04
甲子園準優勝に導いた下関国際・坂原監督
壁に立ちふさがる強大な敵を前に、呪文のような選手たちの言葉が飛び交う。
「やり切れ! やり切れ!」
大阪桐蔭に勝利した下関国際の、弱者が強者を飲み込む野球は、近江との準決勝でも色濃く打ち出されていた。
好投手・山田陽翔の変化球に対して、選手によっては「見逃し三振でもいいから『待て』のサインを出し、見極めさせる」と坂原が指示を徹底するなど、やり抜く姿勢を貫いた。
「一人ひとり抜け目なく、考えていたので投げづらかった。食らいついてこられ、自分もきわどいところに投げようとしてしまった。そういう意識を持たされたことが、負けに繋がってしまったんだと思います」
下関国際の野球は、大会を沸かせたスター選手の山田に脱帽させたほどだった。
日本一を懸けた決勝戦では仙台育英に敗れ準優勝に終わったが、坂原に充足感が溢れる。
「覚悟と勇気を持って動きさえすれば、強豪校にも勝てることを学ばせてもらいました。特に準々決勝と準決勝は、選手たちは本当によく戦ってくれました」
試合後、選手に言ったこと
涙する選手たちを見て、坂原も泣いた。
「下関国際に来てくれてありがとう。決勝の舞台まで連れてきてくれてありがとう」
監督がベンチ入りメンバー一人ひとりに声をかけ、やり切った選手をねぎらった。
チームの快進撃を支えた仲井が言った。
「練習から『弱者が強者に勝つ』と言われてきました。監督さんがいなかったらここまで来られなかったので、本当に感謝しています」
強者をなぎ倒した夏。
下関国際は「弱者」ではなくなった。だからといってマインドが消えることはない。
坂原がしみじみと話す。
「高校野球は諦めないこと。2年4カ月のどこで子供たちが成長するかわかりません。今年は決勝まで勝ち上がってくれたことで、その想いを証明してくれました。今後の指導に活かしていきたいと思います」
敗れてまた、原点に立ち返る。
俺たちは、まだまだ弱い。
これが、下関国際の強靭な精神。
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