甲子園の風BACK NUMBER
大阪桐蔭戦から一転「今までにない」“アウェー”でも下関国際が信じた合言葉…“近江寄りだった甲子園の手拍子”が変わった瞬間とは
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/21 17:00
近江相手に勝利し、決勝進出した下関国際。甲子園で日に日に逞しさを増している
「今までにない雰囲気でしたが、特に気になりませんでした」
同点で迎えた5回1アウト満塁のピンチでは、この試合で最も大きな手拍子が起きた。
しかし、仲井選手は5番、6番打者を打ち取り、無失点で切り抜けた。毎回走者を背負い、7回には2アウト一、三塁を招く。それでも、崩れない。近江の横田悟選手から外角直球で見逃し三振を奪い、ガッツポーズを見せた。すると、球場の空気に変化が生まれる。再三のピンチをしのぐ下関国際にも、拍手が起こった。
大阪桐蔭戦で徹底した粘り強い打撃は、近江戦でも同じだった。140キロ台中盤の直球と、低めに落ちるスライダー、ツーシームを組み合わせる山田投手に対して、コンパクトにスイングした。直球に振り遅れないようにバットを短く持ったり、ノーステップで打ったりする。ボールゾーンへの変化球を見極め、山田投手を体力的にも精神的にも追い詰めた。大胆な作戦も打った。
坂原監督が明かす。
「ボールになる変化球に手を出している打者には、見逃し三振になっても構わないので、2ストライクから『待て』のサインを出しました。ボール球に手を出して空振り三振になってしまうので、一か八かのサインです。序盤は山田投手のボールをしっかり見たい狙いがありました」
ボールになる誘い球に打者が手を出さなければ、投手はカウントを悪くし、球数もかさむ。さらに、より厳しく制球しようと神経を遣ったり、ストライクがほしくなって投球が甘くなったりする。山田投手が5回までに費やした球数は82球。坂原監督は「80球を超えたあたりから山田投手はコントロールを乱してきている」と選手に伝えた。
6回、下関国際打線は山田投手に対して、より強くボールの見極めを意識する。2つのフォアボールとフィルダースチョイスで1アウト満塁とし、7番・森凛琥選手がライト線へのツーベース。決して大振りはせず、148キロの直球を逆方向に弾き返した。
「練習でやってきたスイングをしようと思いました。後ろにつなぐ意識でした」
普段通りの打撃で、2点を勝ち越した。
“アウェー”でも信じた下関国際の合言葉とは
下関国際の選手たちは、今秋ドラフト候補の山田投手が相手でも、甲子園が“アウェー”に変わっていても、動じなかった。いつもと同じプレーを貫いた。
その背景には、チームの合言葉がある。