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木村拓哉、綾野剛…なぜ『オールドルーキー』脚本家・福田靖は“2クール連続で“元アスリートの絶望”を描いたのか?
posted2022/07/31 11:03
text by
木俣冬Fuyu Kimata
photograph by
TBS
所属するクラブが解散し、突然の現役引退を余儀なくされた元日本代表サッカー選手・新町亮太郎(綾野剛)が絶望のなかでセカンドキャリアを模索し、スポーツマネージメント(代理人)に転身する――。ありそうでなかったスポーツの新しい世界を描く日曜劇場『オールドルーキー』(TBS系・日曜よる9時~)。脚本家の福田靖さんは前クールでは元ボクサー(木村拓哉)が高校ボクシング部のコーチになる『未来への10カウント』(テレビ朝日系)も手掛けていた。
『オールドルーキー』と『未来への10カウント』、2作とも元スポーツ選手として活躍していた主人公が諸事情で引退を余儀なくされたあと新たな道を選び再生する物語である。だが昨今、登場人物が苦労し過ぎる話は身につまされ、しんどいと敬遠される傾向にある。月9『HERO』(フジテレビ系)、大河ドラマ『龍馬伝』(NHK)、朝ドラこと連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)とヒットドラマを数多く手掛けてきた脚本家は最近のドラマに求められるものをどう考えているのだろうか(全2回の2回目/#1に続く)。
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2クール連続で「スポーツもの」「絶望的な主人公」
「スポーツものかつ、どん底設定が重なったのはたまたまです(笑)。放送は『未来への10カウント』が先でしたが企画自体は『オールドルーキー』のほうが先に進行していました。
『未来への10カウント』は木村拓哉さんを主人公に若い世代との関わりを描くコンセプトで、まず部活の話を思いつき、それがボクシング部になりました。実際、取材してみたら、女性選手がいたり視聴覚教室で練習していたりとドラマにできそうなエピソードがたくさんあって、これはいいなと」
元ボクサーの主人公と高校生たちの爽やかな交流――と思いきや、主人公はドラマの序盤、かなりどん底にいる。網膜剥離になりボクサー生命を絶たれ、焼き鳥屋に転身するも、妻が病気で亡くなり、店もコロナ禍で潰れてしまうという不幸に次ぐ不幸。現実がコロナ禍や不況などでしんどい分、ドラマでは現実を忘れたいと思う視聴者も多いなか、なぜこんなにも辛いことを盛り込んだのだろうか?
「木村さんが『もっと絶望したい』と希望された」
「木村さんが『もっと絶望したい』『もっと絶望したい』と希望されたんです。その気持ちに寄り添ったうえで主人公のどん底感と高校生たちの爽やかな青春もののバランスをどうとるか考えた末、思いついたひとつのシーンが“ボクシングの不幸自慢大会”でした」
登場人物の不幸を剥き出しに描かないために福田さんが考えたのは、状況を相対化することだった。木村拓哉演じる桐沢祥吾が生徒の前で初めて自身の絶望を語る第4話では、桐沢が唯一の女子部員・水野あかり(山田杏奈)に「お前が話聞いて、大した不幸じゃねえなって思った方を一発殴れ」とあかりの母親の元再婚相手と不幸話を出し合い始める。