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木村拓哉、綾野剛…なぜ『オールドルーキー』脚本家・福田靖は“2クール連続で“元アスリートの絶望”を描いたのか?
text by
木俣冬Fuyu Kimata
photograph byTBS
posted2022/07/31 11:03
現在放送中のTBS日曜劇場『オールドルーキー』。Jリーガーだった主人公の“セカンドキャリア”を描く今までになかった新しいドラマの制作秘話を脚本家の福田靖さんに聞いた
「そのシーンでは、満島ひかりさん演じるヒロインが桐沢に『高校生、ドン引きしますよ? 大人があんなドヤ顔で不幸話語っちゃったら』と釘を刺すセリフも加えました。さらに『私だってシングルマザーだし』と皆、それぞれ、何かを抱えているのだということも」
主人公のみならず生徒だって高校教師だってみんなそれぞれしんどい想いを抱えながら生きていることを俯瞰することで、少しだけ軽やかさをもたせて描くトライをした福田さんだったが、『オールドルーキー』でも同じような問題にぶち当たった。主人公・新町(綾野剛)は所属しているサッカーチームが潰れ、ほかのどこも手を差し伸べてくれずスポーツマネージメントという裏方にまわるが収入は激減、タワマンのローンも残っているし養育費もまだまだこれから必要というどん底設定だ。これはリアルに考えたらしんどい。
「妻・果奈子役の榮倉奈々さんのご提案もあって、主人公の不幸感を中和するために、妻が叱咤激励して『がんばりますって言いなさい!』というようなセリフを言わせています。しんどい話になり過ぎず多少コミカルに見えますよね」
誰に向けて作る?「視聴率という成績表は意味を成しません」
登場人物の苦労をできるだけからりと描く創意工夫は、若い世代にもドラマを観てほしいという考えに基づいたものなのだろうか。そう尋ねるとそういうわけではないと福田さんは言った。ターゲットを絞って描くことはないそうだ。
「僕は昔から小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで家族で見てもらえるものを、と考えて脚本を描いてきました。僕がドラマの脚本を書き始めた頃は視聴者の反響が世帯視聴率に出やすい時代でしたから、“家族で見られる作品に”というのは当たり前でした。ところが今やネットでドラマが見られるようになって、従来の視聴率のシステムは通用しなくなっています。もはや視聴率という成績表は意味を成しません。ほかに指標がないから視聴率を気にするしかなかったにもかかわらず、今は何をもってして人々に受け入れられるか正直わからないですね」
福田さんはいまの状況に困惑を見せる一方で、自分のペースを貫こうとしている。
「ドラマの世界に限らずなんの世界もそうでしょうけれど当たったものに流れていくことが常。ドラマの場合、考察ものが当たったらそれが増えて行く傾向は確かにあります。でも僕はそこには乗らないようにしています」