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沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
ゴールドシップ産駒の人気馬・ブラックホール“初めての相馬野馬追”に密着! 競馬ファンと引退競走馬をつなぐために必要なこととは?
posted2022/07/31 11:01
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Akihiro Shimada
ノーリーズンの数頭後ろに、白地に赤い模様が斜めに走る、特徴的な旗指物が見えた。ブラックホールである。騎乗しているのは、北郷軍者の濱名邦弘さんだ。
ようやく見つけた。黒鹿毛の馬体も、整った顔も、まだ若々しい。あらかじめ目をつけていた馬を見つけるのも嬉しいが、いることを知らなかった馬に会うのもまたいいものだ。
総大将の相馬言胤(としたね)さんの初出陣の姿をカメラにおさめてから雲雀ヶ原祭場地の内馬場に向かい、ブラックホールに乗る濱名さんの旗指物を探した。目立つので、すぐに見つかった。
濱名さんは、快く取材に応じてくれた。
「この馬がうちに来たのは1年半くらい前のことでした。脚の腫れもひどく、最初の半年ほどは治るかどうかもわからず、野馬追に出られるかどうかもはっきりしませんでした。それがこうしてよくなったので、情報を発信することにしました」
立派に初陣を乗り切ったブラックホール
そう話した濱名さんは、小学生のときから50年以上野馬追に出陣しているという。
「以前はサーペンプリンスという馬で出陣し、5年くらい前まではマイネルシーガルという馬もいました。ですから、うちに来た有名な馬は、この馬が3頭目なんです」
サーペンプリンスは1980年のスプリングステークスと函館記念、マイネルシーガルは2007年の富士ステークスを制した強豪であった。現在は、このブラックホールと、大井で走ったモンテドラゴーネの2頭を飼育しているという。情報発信は息子さんと娘さんが担当しており、突然のフィーバーに驚きながらも、多くのあたたかい言葉に励まされ、この馬がたくさんの人に愛されていることをとても喜んでいた。
やはり、猛獣の仔だけあって、うるさいところはあるというが、ブラックホールは立派に初陣を乗り切った。
初めて甲冑を見ると、驚いて立ち上がる馬も
野馬追の初陣というのは実は結構大変で、初めて甲冑姿の人間を見ただけで驚いて立ち上がる馬もいる。そうならないよう、馬から見えるところで甲冑を身につける騎馬武者もいる。ほかで問題になるのは「音」だ。行列のスタートなどのたびに花火が打ち上げられるし、何度も法螺貝の音を聞くことになり、さらに、旗指物が風に吹かれても音が出る。また、野馬追通りから雲雀ヶ原祭場地に入ると、周回コースの向こう側の本陣山が競馬場のスタンドのように見えるので、競走馬時代を思い出してしまうのか、急に入れ込んで暴れる馬もいる。
しかし、馬は学習能力が高いので、一度経験して大丈夫だとわかると、次からは案外こなしてくれる。脚元がこのまま順調でいてくれたら、来年もまた、ブラックホールの勇姿が見られるかもしれない。