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沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
ゴールドシップ産駒の人気馬・ブラックホール“初めての相馬野馬追”に密着! 競馬ファンと引退競走馬をつなぐために必要なこととは?
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAkihiro Shimada
posted2022/07/31 11:01
ゴルシ産駒で競走馬としても活躍したブラックホール。相馬野馬追ではどんな様子だったのか?
馬たちは単騎で逃げる“難役”もこなす
相馬野馬追の3日目、7月25日、月曜日には、相馬小高神社で野馬懸(のまかけ)が行われた。騎馬武者たちが参道を駆け上がり、裸馬を境内に追い込む。それを御小人(おこびと)たちが素手でつかまえ、神前に奉納するという神事である。
今年は3頭が野馬として「追われる」役を演じた。1頭の野馬が5、6騎の騎馬武者に追われることになる。最初に登場したのはウォースパイト(牡8歳、父クロフネ、中央7戦0勝、地方13戦1勝)だった。宇多郷功労者の持舘(もったて)孝勝さんの所有馬で、持舘さんを背に騎馬武者行列にも参加していた。
馬というのはどうしても仲間と一緒に走りたがるので、人が乗っていない状態で単騎で逃げるのは難しい。それでも、ウォースパイトは完璧にその役をこなした。さらに、御小人につかまえられそうになると立ち上がったり、走り出したりと観客を沸かせる「演出」に協力する。神前に曳かれて、たてがみに紙垂(しで)を結びつけられるときはじっとしているなど、性格にメリハリがあるし、芦毛だから神馬(しんめ)の役にぴったりだ。
なお、野馬懸で参道を駆け上がったほかの2頭も、また、前出の「テル君」こと只野晃章さんが乗ったレッドカロスも、持舘さんの所有馬である。
引退競走馬への関心が高まっている現在だからこそ…
今回紹介できたのは、相馬野馬追に参加した元競走馬のほんの一部にすぎない。騎乗馬の競走馬時代の馬名を知らずに出陣している騎馬武者もかなりいるのだが、競馬ファンとしては、馬名がすぐにわかると野馬追を見る楽しみが倍増する。
今は、相馬野馬追執行委員会が全日ネットでライブ中継するなど、どこからでも野馬追を見られる状態になっている。だからこそ、野馬追を支える人々の裾野をひろげるためにも、競馬ファンをもっと引き込んでほしい。競馬ファンというのは、金を遣って、気持ちを動かされる対象をつねに探しているのだ。
例えば、相馬野馬追執行委員会のサイトにPDFでアップされている「相馬野馬追御行列列帳」に、判明したぶんだけでも競走馬時代の馬名を添えたバージョンを加えるだけでも違うのではないか。ここ数年、ウマ娘の影響もあり、競馬ファンの引退競走馬に対する興味と関心が、ひと昔前では考えられないほど高まっている。それを利用しないのはもったいない。
千余年の歴史の末尾のちょっとした変化が、伝統をつなぐ力を強めることに、きっとなると思うのだが、どうだろう。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。