前の世代のファンは「薄口」と見るかもしれないけど

「それは仕方ないよね。次の世代が出てきたら、その前の世代のファンからはどうしても『薄口』に見られてしまう。力道山さんに熱狂した人は、猪木さんやジャイアント馬場さんたちを見てそう感じただろうし、猪木さんのファンからしたら、俺たち闘魂三銃士のプロレスは『薄い』って感じたと思う。でも、それでもレスラーもファンもしっかりと新しい世代にひき継がれていることが新日本の凄さだよね。木谷社長が現在の新日本の資産価値を30億だって言ってたらしいけど、OB系を上手く活用すれば、資産価値は倍になるんじゃないかな」

アントニオ猪木　©BUNGEISHUNJU

　インタビューを終えたあと、事務所の近くにある撮影場所まで並んで歩いた。そのゆっくりした足の運びに、彼が両膝に爆弾を抱えていたことを思い出す。

「プロレスというのは、リングで向き合った2人で作るものなんだよね」

　こちらの動揺に気づいたのか、かつて“黒のカリスマ”と呼ばれた男は、膝の痛みをプロレス論とユーモアに包み込んだ。

「相手が90％攻めてきたら、こっちは90％受けをしなければならない。きれいな受けをしなくちゃいけないんだ。これが、しょっぱい受けだったら、いくら一方が攻めても、プロレスにならない。なかには攻めより、受けているほうが目立つ選手もいる。俺も、そっちにいきすぎちゃったんだけどね」

　プロレスの“正体”とはなにか――。その問いかけに対する究極の回答は、栄光の代償を全身に刻んだ51歳の肉体かもしれない。