名古屋行きにあたって、後藤が唯一悔やむのが、オリックスでお世話になった人たちにゆっくりと感謝の思いを伝える時間がなかったことだ。トレードが決まったその日に名古屋へ移動しなければならなかったため、限られた時間の中で、舞洲で挨拶し、急いで京セラドーム大阪に移動して一軍の選手、スタッフにもわずかな時間で感謝を述べ、大阪を離れた。

　それでも、短い会話に万感の思いを込めた。特にトレーナーやアシスタントスタッフなど裏方の人々に深い思い入れがある。

「選手はまた会えると思うんですけど、裏方さんたちは……。17歳でまだ子供だった時からお世話になってきた人もいるから、そういう人たちとの別れはグーッときましたね」

2016年西武戦 ©Kiichi Matsumoto

　その1人が、「シュン坊」「ウリ坊」と呼び合って慕っていたブルペン捕手の瓜野純嗣だった。瓜野は、後藤の早出練習で打撃投手を務めるなど、入団時から常に寄り添ってきた。

「ウリさんは『バッティングする時はいつでも投げてあげるから』と言ってくれて、若い時から可愛がってもらったので、離れるのはすごく寂しかったですね。最後挨拶した時も熱い言葉をくれました。『チャンスだと思うし、プラスしかないと思うから、野球楽しんでくれ。会えなくなるのは寂しいけど、超応援してるし、ずっと見てるよ』って」

　そう振り返る後藤の声は震えていた。

　8歳年上の瓜野も、「寂しくて、あの時は僕のほうがウルウルきていましたよ。駿太のことは、人としてもめっちゃ大好きなので」と目を潤ませる。

　楽しむより苦しんでいる後藤の姿を多く見てきたから、「野球楽しんで」とLINEにも送った。

「本当に頑張ってほしい。『こんなにいいもの持ってんのになんで』と思いながら見ていました。駿太は心が優しい、考え込みやすい子だから、落ち込んでいる時に、一言二言でもプラスになる言葉をかけて、乗せてあげられたらなと思っていました。

　言い方は悪いですけど、プロ野球選手としては、『他の人は関係ない』という、自己中なぐらいの選手になってくれたほうが、そういう選手のほうが活躍しているんですよね。我が道をしっかり進めればいいんですけど、駿太は優しいから、周りのことをいろいろと気にしてしまうところがあった。トレードは寂しいですけど、駿太にとっては絶対プラスだから、本当に頑張ってほしいです」

「Tさん、ありがとうございました」

2014年CS日本ハム戦で先頭打者ホームランを放った駿太を迎えるT-岡田ら　©KYODO

　また、1年目のオフから後藤を自主トレに誘うなど、常に気にかけてくれた先輩、T-岡田には、移籍後改めて連絡を取った。「Tさん、ありがとうございました」と伝えると、こう言葉をかけられた。

「駿太がもがいている姿をいっぱい見てきた。でも頑張ってる姿っていうのは全然カッコ悪くなんかないから、中日に行っても頑張れ」

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