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「毎回言われるから頭にきちゃって…」北口榛花、世界陸上メダル獲得の直前にケンカ勃発? チェコ人コーチとのただならぬ緊張関係《歴史的快挙の舞台裏》
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2022/07/24 17:01
世界陸上日本人女子史上初、フィールド競技でのメダルを獲得した北口榛花
決勝では北口の投擲が終わるたびに、セケラックコーチは両手を顔の横につけて、「集中しろ」とサインを送っていた。
「頭にきちゃって喧嘩しました」
コーチとしてはごく普通のアドバイスにも見えるが、北口はカチンと来たらしい。
「この場所で集中しない人いないでしょ。毎回言われるから頭にきちゃって喧嘩しました」
笑いながらそう説明する。
この日は1投目に62m07を投げて3位につけたが、2投目はファール、3投目は55m78と記録が伸びなかった。
「(1投目で記録を出せて)安心しすぎて2、3投目ダメだったかな」と振り返るように、セケラックコーチの「集中しろ」は正しいアドバイスだったように思う。
口論や喧嘩をしても、コーチが自分と全力で戦ってくれていることを北口は知っている。
ユージーンに到着以降、コーチは毎日試合と同じ時間にスタジアムを訪れ、同じ場所で風の確認をしていた。追い風か向かい風か。風は舞っているのか、一定なのか。
天候や風を読み、北口に指示を出してくれた。
決勝のウォームアップの際に、北口が助走練習を行なう姿をコーチは前屈みになって見ていた。投擲の際には息を止め、投げ終わると大きく息を吐いて、階段を降りて指示を出した。
「コーチの方が緊張していたし、力んでいたと思う」
北口がそう話すように、試合後、コーチは安堵で疲れ切った表情をしていた。彼もまた全力で戦っていた。
銅メダルが決まると、チェコ出身の男子やり投げ世界記録保持者のヤン・ゼレズニー氏がセケラックコーチに「おめでとう」と声をかけていた。
母国の英雄に讃えられ、セケラックコーチの目は潤んでいた。