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17歳のダルビッシュ有が「どうしても投げたい」 東北高の先輩が振り返る19年前の甲子園決勝「さすがにあいつも熱くなるのだろうか…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/16 17:01
東北高校2年時から注目を集めたダルビッシュ。自らの判断で降板もしてきたクールなエースは2年の夏、ケガがありながら決勝の先発マウンドを志願した
翌8月23日。ダルビッシュは決勝のマウンドに立った。いつものように不敵な笑みを浮かべ、茨城・常総学院の打線を封じていく。打線も2回に片岡のタイムリーなどで2点を先制した。順風の東北ベンチ。ただ、その中で3年生の捕手、佐藤弘祐は早くからエースの異変に気付いていた。
《あの当時の有は剛速球というより技巧派でした。指先の感覚が優れていて、多くの変化球を操れるし、コントロールが抜群にいいんです。ただ、あの日は回を追うごとにその精度が明らかに悪くなってきました。足が痛いんだろうなと感じました》
4回表。佐藤が構えたミットから明らかに外れるようになったダルビッシュの球が常総打線に捕まる。1点を奪われ、なおランナー三塁。ここで5番の右バッターに対して佐藤は外角にミットを構えたが、ダルビッシュの指先から放たれた球は内角へ。打球はレフト線に弾んだ。
あの日の有は降りる気配がなかった
この2年生エースの球が右打者に引っ張られることは滅多にないため、左翼の片岡は普段のようにレフト線を空けて守っていた。そこを打球が抜けていく……。同点。
リードを吐き出してしまったダルビッシュは顔を歪めて何事かを叫んだ。いつになく感情的だった。そして続く左バッターには右中間を真っ二つに破られた。逆転。
誰もがエースが陥っている苦境の深さに気づいた。東北ベンチから背番号18の真壁賢守がブルペンへ走った。黒縁メガネをかけた2年生のサイドハンドは、この大会でダルビッシュを好リリーフし、決勝進出の原動力になっていた。決勝の先発は真壁ではないかと予想されていたほどだ。
佐藤はマスク越しにブルペンの真壁とマウンドのダルビッシュを交互に見た。
《連打されて、足も痛い。もう代わりますと言ってもおかしくない場面でした。でもあの日の有は降りる気配がなかった》
<後編へ続く>