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17歳のダルビッシュ有が「どうしても投げたい」 東北高の先輩が振り返る19年前の甲子園決勝「さすがにあいつも熱くなるのだろうか…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/16 17:01
東北高校2年時から注目を集めたダルビッシュ。自らの判断で降板もしてきたクールなエースは2年の夏、ケガがありながら決勝の先発マウンドを志願した
《衝撃的でした……。僕も含めて誰もが監督の言うことは絶対だと、ずっと考えてやってきたわけですから》
片岡は1学年上の高井雄平(現・ヤクルト)と同じ神奈川・緑東シニアから東北に入った。最上級生になってポジションをつかみ、主将に選ばれた。黙って辛い練習に耐え、甲子園に出て、燃え尽きる。それが片岡の描く高校野球だった。
その常識をダルビッシュは揺さぶった。自分が納得しなければ走らない。投げない。全国大会だろうと体に痛いところがあれば「無理です」と自らマウンドを降りた。
自分たちの常識からはみ出したダルビッシュに対して、一部の3年生から不満が漏れた。『なんであいつだけ?』。
悪態顔の中に垣間見える野球への純度
片岡はそういう声をひとつずつ解消してまわった。不満を持つ部員の部屋を訪れ、耳を傾け、吐き出させる。人知れずそういう役割を買って出た。
《有は生意気なんですけど、やっぱり憎めないところがあったんです。年上の人間でも懐に入ってきますし、上下関係を超えて人と人の付き合いができるというか》
194cmのダルビッシュはよく、すれ違いざまに先輩である片岡の坊主頭をポーンと触ってきた。かと思えば、突然、寮の部屋にやってきて「片岡さん、ちょっとチームの空気が緩んでいますよ」と真顔で訴えてきたりした。悪態顔の中に垣間見える野球への純度。生意気ぶるのは彼の本質ではなく、照れ隠しのような気がした。だから片岡は異端のエースとチームを融合させることが主将としての役割だと考えた。
さすがにあいつも熱くなるのだろうか…
ただ、それでもあの決勝前夜、高校野球を通過点だと考えているような右腕が、痛みを押して先発を直訴したというのは意外だった。《甲子園の決勝ともなれば、さすがにあいつも熱くなるのだろうか……》と、片岡は考えていた。