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<復帰即ランニングHR>鈴木誠也がケガ離脱中に語っていた本音「”やれる”と思ったことは一度もない」「いくら失敗しても、僕は全然いい」
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byGetty Images
posted2022/07/07 17:00
7月4日、ランニングホームランで生還を果たす鈴木。離脱期間中、広島時代から取材していた筆者が本人に話を聞いていた
「こっちに来てから“状態がいい”“やれる”と思ったことは1度もない。最初の頃は立っていたら勝手に(打てるコースに)投げてくれて。四球もあった。自分の中で甘い球を振れているかといえば、振れていないし、捉えられてもいない。自分の中では違うなと思っていたけど、数字が出ていたからへたに変えてすべてがおかしくなるのが嫌だった。ただ、いずれ(打てなくなるときが)来るのは分かっていた」
メジャーはデータ化とパワー化が進み、投手の平均球速が近年格段に上がっている。競争激しいマイナーリーグからはい上がってきた投手たちは変化球も制球力も兼ね備える。投げ方や特徴はそれぞれ異なり、出てくる投手はすべて個性的。「こっちの投手は間がない」という面にも戸惑った。
不思議と鈴木誠也は笑っていた
4月27日ブレーブス戦の2安打を最後に、マルチ安打がパタリと止まった。下降する打率や思うような打撃ができない日々を過ごしながら、もがいていた。
故障者リスト入りしたことで立ち止まり、メジャー1年目の自分の現在地を確認することができたのかもしれない。
「現時点では、日本と同じような数字は残せない。今のレベルじゃ無理という感じはしている」
冷静なまでに自分自身に突きつけた厳しい現状にも、不思議と鈴木は笑っていた。
「でも、楽しいですよ。これを求めて来ているわけなので。失敗することも、苦しい思いをすることも分かっていた。やってみないと分からない。失敗しようと思って来ているわけではないですが、違う環境に来れば失敗することはある。それをマイナスとして捉えるのではなく、そこで勉強していけばいい。いくら失敗しても、僕は全然いい。そういう挑戦を続けてきた人の方が人間的にも深みが出ると思う。今後の人生にも生きると思う」
苦戦も、挫折も、覚悟の上。目の前に立ちはだかる新たな試練に奮い立つ闘争心に高揚しているようだった。
あの感覚で打ちに行けばいいのかな
リハビリと並行しながら肉体強化に取り組みつつ、技術面では明確な修正点を見いだしていた。きっかけは左薬指を負傷した直前の1本。5月26日のレッズ戦3回に、100マイル右腕のハンター・グリーンの初球を中堅へライナーではじき返した打撃にあった。