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「髪を切ったら“婚約破棄されたんだ”と書かれて…」韓国の人気女子ゴルファーが明かす“うつ病”との闘い《スター選手の知られざる苦労》
text by
南しずかShizuka Minami
photograph byShizuka Minami
posted2022/07/01 17:00
KPMG全米女子プロゴルフ選手権を制したチョン・インジ(27歳)。優勝会見ではガッツポーズをみせて2018年以来の優勝を喜んだ
症状の悪化とともに、成績も下降線を辿った。
20歳そこそこだったインジは、ファンやメディアの過剰な注目への心の準備も整っていなかった。インターネットで自分の名前を検索すれば、いわれなき誹謗中傷のコメントが目に入り傷つく日々……。
「たとえば、ずっとやってみたかったショートヘアの髪型にしたら、『彼氏と別れたんだろ』『婚約を破棄されたんだ』『両親から髪を切ることを強要されたに違いない』などネット上に根も葉もない噂が溢れてて、すごく嫌な気分になりました。一つ一つのコメントは些細なこと。ただ、それが積み重なって、自分の中で消化できず、過敏に反応するようになっていきました」(18年KEBハナバンク選手権の優勝会見より)
大好きな祖母と再会「身体を大切にしてね」
事態が好転し始めたのは、大好きなおばあちゃんとの再会だった。
インジは韓国で行われた18年の同大会の約2カ月前、入院中の祖母のお見舞いに行った。子どもの頃、共働きで忙しかった両親に代わって朝食を作ってくれた、インジにとっていわば母親代わりの存在だ。しかしその面会では、どんなに声をかけても自分を認識してくれなかった。病院での面会時間は30分。残り1分を切り、そろそろ部屋を出ようとした時、祖母から「身体を大切にしてね」と声をかけられた。インジはそこで「もうネガティブなことに囚われるのはやめよう」と、心を入れ替え始めた。
祖母の愛情が力となり、2シーズンぶりに優勝。そこから生活習慣も見直した。抜きがちだった朝食をしっかり摂るようになり、コンディションが安定。身体も鍛え直したことで、10ヤードほど落ちていたドライバーの飛距離が戻ってきた。そして今シーズンは、16年にともにメジャー制覇したキャディのディーン・ハーデンと再びタッグを組んだ。
キャディ歴30年以上のハーデン氏は、インジの変化にすぐ気がついた。