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「髪を切ったら“婚約破棄されたんだ”と書かれて…」韓国の人気女子ゴルファーが明かす“うつ病”との闘い《スター選手の知られざる苦労》
text by
南しずかShizuka Minami
photograph byShizuka Minami
posted2022/07/01 17:00
KPMG全米女子プロゴルフ選手権を制したチョン・インジ(27歳)。優勝会見ではガッツポーズをみせて2018年以来の優勝を喜んだ
「16年の頃より、インジは試合中に考えすぎるようになっていました。たとえば今年4月のハワイの試合の時、ボギーを叩いたんですね。切り替えるべきなのにインジは次のホールのティーショットを打つ前に『さっきのショットだけどさ……』と僕に話しかけてきまして。僕はすかさず「気持ちを切り替えようよ!』と伝えました。試合中はどんな状況でも、すでに終わったプレーを引きずるより、目の前の一打に集中した方がいいのです」
そんなインジにとって、今大会の会場は相性が良かったのかもしれない。戦いの舞台となったコングレッショナルCCは男子メジャーが開催されたこともある名門難関コース。今大会をWOWOWの中継レポーターとして現地取材した元世界アマチュアランキング1位の片平光紀は「すごく頭を使うコースだった」と語る。
「ショットの総合力が求められました。フェアウェイやグリーンのアンジュレーション(起伏)が大きいので、ピンの位置から逆算が必要でした。たとえば、ピンが左にあるから、ティーショットは右サイドのフェアウェイを狙わないと攻められないとか。特に2打目を打つ位置からピンが見えないというブラインドショットがすごく多かったので、クラブの選択、風の計算など選手はすごく頭を使ったと思います」
余計なことを考える余裕を与えない難コースだったことが、インジにとっては好都合だった。
現地レポーターも驚くインジの“余裕”
4日間を終えて、アンダーで回り終えたのはわずか9選手のみ。そんな中でもインジのロングウッドが冴え渡っていた。大会初日の午前中は、風がなく、雨が降り、地面が柔らかくなっていたので、ボールが転がらなかった。ロングウッドで思うようにボールを打って止めることができたことが、通算8アンダーというコースレコードにつながった。
「2打目を7番ウッドや9番ウッドで打つのを見かけたのですが、その精度が抜群でした」(片平)
最終日、初日から3日間ずっと首位を守り続けてきたが、一時レキシー・トンプソン(米国)に逆転を許し、優勝争いは最終18番ホールまでもつれた。一打差リードでむかえた18番パー4。第2打は打球跡(ディボット跡)にギリギリ入るかどうかという左足下がりのライ。
「ピッチングウェッジで打った瞬間、変な音がして、インジが思わず、『えっ!?』と驚いたところを見たんですよ。地面に何かあったかもしれないです。打球は明らかに飛びすぎて、池に入りそうな勢いで転がっていきました」(片平)
だが、そんなハプニングにもインジは動じない。ピンまで約20m離れた第3打の場所へ向かうインジの姿に驚いたと片平は続ける。
「グリーンまで歩くテンポは変わらず、アナウンスされたらギャラリーに笑顔で手を振る。パットが入らなければ、プレーオフ、または優勝を逃す可能性だってあるわけです。正直、凄いなと思いました。普通だったら次のパットのことで頭がいっぱいで、周りを見る余裕がないと思うんですよ」