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<ノーヒットノーラン>「人間って、自分の機能をあまり上手に使っていない」山本由伸23歳が語っていた“理想の投球”とただ一人の「特別」な投手とは
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2022/06/19 11:04
6月18日、西武戦でノーヒットノーランを達成したオリックス・山本由伸。四球1個、球数は102球というほぼ完璧な内容だった
「バットに当たらない球を投げるのがいちばんですが、当たったとしても前に飛ばない、ヒットにならない球を求めていきたいです。自分は相手打線のデータを見て投球を組み立てるというよりも、その日の調子のいい球で組み立てていくという感じです。その日の自分のコンディションを見極めながら、相手に点を与えないこと。それがチームの勝ちにつながると思うので」
高津監督「打ちに行っているのに、前に飛ばなかっただけ(笑)」
実際、昨季の日本シリーズで対戦したヤクルトの高津臣吾監督は、山本と対戦して、こう証言している。
「山本投手だけは研究云々じゃなく、自分に自信のある球でグイグイ押してきました。第1戦はファウルで粘って球数を投げさせ、6回で降板させたように言われてますが、実際には打ちに行っているのに、前に飛ばなかっただけ(笑)。第6戦は、正直、これはすごい投手だと思いました」
相手に「お手上げ」と思わせてしまうほど、ドミネート出来るのが今の山本の投球なのだ。
試合単体で見れば、「圧倒」の最終形態は完全試合であり、無安打無得点試合だろう。山本がもっとも完全試合に近づいたのは、2021年6月11日の広島戦だった。
山本は7回まで完全試合を続けていたが、8回に鈴木誠也に安打を許した。それでも8回で15個の三振を奪って圧倒。「忘れちゃうんです、昔の試合」という山本だが、日本シリーズと並び、この広島戦については記憶の引き出しがスーッと開いた。
「マウンドに上がってからは、全部がピタッとハマった感じ」
「あの試合のこと、よく覚えています。試合前のブルペンまではあまり状態はよくなかったんです。去年の前半戦はわりと波があって、ココが合っていても、ココがダメだという状態が多くて。ところが、マウンドに上がってからは、全部がピタッとハマった感じで、この試合のピッチングからうまく歯車が回っていきました」
完全試合まであと「OUT」6つまで迫った時の感触は、貴重な感覚として残っている。
「完全試合は、本当にいろいろな要素が絡んで達成できるものですよね。いま振り返ってみても、やっぱりパーフェクトは難しいなと思います」
それでも、偉業に対する野心はある。
「いつか達成してみたいです。いつかは」
山本由伸の進化の過程を見る限り、その日がきっと訪れる気がしてならない。