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<ノーヒットノーラン>「人間って、自分の機能をあまり上手に使っていない」山本由伸23歳が語っていた“理想の投球”とただ一人の「特別」な投手とは
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2022/06/19 11:04
6月18日、西武戦でノーヒットノーランを達成したオリックス・山本由伸。四球1個、球数は102球というほぼ完璧な内容だった
「プロに入って一軍で最初に登板した時、5回で80球くらい投げて、腕も体もパンパンになったんです」
2017年8月20日。その時点まで、二軍で防御率0.27という驚異的な投球を誇っていた山本は、一軍に昇格する。そして千葉ロッテ相手に5回を投げ、失点1、奪三振6を記録、ストレートの最高球速は152kmを計測した。上々のデビュー戦だった。ところが、反動があった。
「『山本はスタミナがない』とも言われました」
「本当に体が張ってしまい、回復するのにも時間がかかりました。とても中6日で次の登板に備えるという感じではなく、『山本はスタミナがない』とも言われました。そこからでした。本当のスタートは」
なぜ、デビュー戦ではそこまで消耗してしまったか? 山本自身の分析が面白い。
「スタミナがないと思われたのは、自分が必要以上に力んでしまって、出力が大きすぎたからです。だったら、力まなければいい。力まずに質の高い球が投げられれば、良いと考えたわけです」
その命題に対しての解の導き方も興味深い。一般的な発想であれば、心肺機能を高め、筋力トレーニングで数値の向上を図っていくところだ。しかし、山本の発想、アプローチはまったく違った。
「人間って、自分が持っている機能をあまり上手に使っていない」
「人間って、自分が持っている機能をあまり上手に使っていないんですよ。体の機能をうまく使えれば、それほど力むことなく自分の理想の投球に近づくことが出来るはずです」
山本はルーキーシーズンのオフから独特のトレーニングに取り組んできた。ウォームアップは器械体操の要素を取り入れた他に例を見ないもので、たっぷりと時間をかけ、山本が意識している部位に刺激を入れていく。また、練習ではやり投げを連想させる「ジャベリック・スロー」などを導入し、全身を使ってボールに生命を宿す作業に取り組んでいる。
その結果として、昨季から相手をドミネート、圧倒する投球が実現するようになったというわけだ。
「始動してからの体重移動、リリースまでを連動させることが出来るようになってきました。もちろん、まだまだ向上できる余地はあります。そのうえで、1球、1球の質にもこだわっています。“今のは、自分が目指しているボールに近かったな”と手ごたえを感じる時はあります。でも、自分の場合はすぐに忘れちゃうんですよ。結構、感覚的なので」
投手の中には、「あの時の球を、もう一度」と過去の自分に理想を求める選手もいるが、山本は「常に自分を更新してる感じです」と話す。