「今は相手チームも細かいところまでデータ分析してきますから、アップデートしていくのに忙しくて」

　過去にこだわらない山本だが、それでも昨季の日本シリーズの第6戦は、自分の理想に近い投球が出来たという。

「体重移動もスムーズで、終盤になるにつれていい球が投げられるようになっていきました。9回、141球を投げても、『これ、まだ投げられるな』という感じだったんです。あの試合は、結果的にチームは負けてしまったので良かったとは言いづらいんですが、中盤以降は無失点に抑えて、たしかに理想に近い投球だったかもしれません」

昨年の日本シリーズ第6戦での山本由伸　©︎Naoya Sanuki

　入団6年目、23歳にしてすでにピッチングの理想に近づいている山本だが、今後、どんな記録に挑み、誰の投球を模範として向上を図っていくのだろうか。

山本がただ一人「特別」と語る投手とは？

「僕には誰かのフォームを真似してみたいとか、そういう気持ちはないんです。でも、楽天の田中（将大）さんだけは特別です。東京オリンピックでチームメイトになって、『あれだけの実績を残している田中さんは、どんな練習をやっているんだろう？』と気になっていました。実際、田中さんのキャッチボールを見ていたら、本当に美しかった。投げるという動作を意識せず、体が自然に動きながら、ボールを投げているんです。いつまでも、全球、見ていられました」

　天才は、天才にしか理解されないという。映画「アマデウス」で描かれたモーツァルトとサリエリのように。体の機能を総動員することを意識している山本だからこそ、田中の流れるような美しさを発見できたのではないか。

「同じパ・リーグでプレーしていたとしても、相手先発投手の投球を見る機会は限られます。その意味でも、オリンピックで田中さんと同じユニフォームを着たことで、学べたことがたくさんありました。間違いなく、自分の経験値が上がったと思ってます」

　振り返ってみれば、田中は2013年にシーズン24連勝という金字塔を打ち立てた投手だ。「勝利を呼び込む投手」ということが、山本の理想像と重なっているのかもしれない。山本はエースとして試合を作るため、ボールの「質」を高めたいと話す。

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