猛牛のささやきBACK NUMBER
オリックスに来てから“笑顔”が増えた? 43歳能見篤史が明かす古巣・阪神への感謝と“特殊”な重圧「もう1人違う自分をつくっていた」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2022/06/20 06:00
今シーズン初登板が古巣・阪神戦となった能見篤史(43歳)。名前がコールされると球場に大きな拍手が広がった
「確かに、こっちのほうが(笑顔が)増えていますね。自然と。環境が違いますから。阪神では、どこに行っても見られていますし、ちょっとしたことですぐ記事になるというのもありましたから。入団した時から“笑う”というのはなかったですね。今は変わっていると思いますけど、昔はチームの雰囲気的にも、笑うなじゃないですけど、そういう感じはありました。ヘラヘラ笑っていたらそれだけで取り上げられるような雰囲気でしたし。そういう環境だったので、笑えない、というのが染み付いていましたね」
阪神時代は、メディアを通して伝わってくるコメントも最小限のイメージだった。オリックスに移籍後、能見に初めて取材させてもらった時、「こんなによく話す選手なのか」と驚いた。
「阪神は特殊なので」と苦笑する。
「(投手は)打たれてもコメントしないといけないし、(野手は)打てなかったコメントをしないといけない。あそこの凡打が、とか、あの1球が、とか。そういうところは難しかったですね。もちろん遊びで投げているわけじゃないので、しっかり準備して投げた結果がそうなった時に、全部背負ってしまうというか、どうしても、この試合あなたのせいでこうなったでしょ、というふうに感じてしまう。それがずっと続くと、プレッシャーにもなる。プロなので、それは当たり前といえば当たり前かもしれないですけど」
盟友・鳥谷敬の言葉にも共感
何気ない言葉が、誇張されて見出しになり、驚いたこともあった。
「だったら、いらんことはもうしゃべらないでおこう、と慎重になっちゃうんですよね。誰かが守ってくれるわけでもないですし。だからみんな、でかいことを言わなくなる。でもそういう風習も今はだいぶなくなってきていると思いますけどね。
オリックスの選手は、そういう点は助かっていると思います。変なプレッシャーはあまりないと思うし、ずっと見られているという感じではないので」
長年阪神でプレーし、ロッテに移籍後、昨年現役を引退した鳥谷敬が、引退会見で「阪神では、野球選手の鳥谷敬を演じている感じだった」と明かしたことについて聞いた時、能見は共感していた。
「全然、自分と違う人間がやっている感覚でした。野球選手としての人間を演じている、というのは近いですね。もう1人違う自分を、野球をする人間をつくっていました。ユニフォームを着替えたら元に戻るんですけど」