あの試合は、タイミングを読んで左フックが当たった瞬間をおさえられたのですが、角度がモンティエル選手の背中側からだった。素晴らしいパフォーマンスの試合だったのに、本当の意味で「完璧な写真」ではありませんでした。ただ試合後、ドネア選手がこちらに寄ってきて、喜んでいる瞬間の写真が撮れた。それで全米ボクシング記者協会のアワードに選んでもらいました。

2011年2月19日、WBC・WBO世界バンタム級タイトルマッチでモンティエルを下し、歓喜するドネア　©Naoki Fukuda

　そのときと同じように、井上選手がダウンを奪った決定的な右もタイミングを読んでシャッターを押しているんですけれども、やはりもっといい角度で撮りたかった。でもニュートラルのあたりにいたので、試合後に井上選手が寄ってきたときにいい写真が撮れたんです。

　右と左の違いこそあれ、どちらもテンプルを打ち抜いていて、撮影は背中側から。2ラウンドの決着で、試合後に「いい画」があったというのも同じです。11年前はドネア選手の黄金期でしたが、今度は倒される側になった。あらためて今が「井上尚弥の時代」であることを強く感じましたし、個人的にも忘れがたい経験になりました。

©Naoki Fukuda

「パッキャオ並の熱を感じる」世界中から届くリクエスト

　僕はドネア選手とも親交があるので、彼に対して特別な思いがあります。敗れたとはいえ、その人間性と強さで日本のファンを夢中にさせ、「ドネアコール」まで引き出した。実際、井上選手のパンチをあれだけ打たれて粘れる人は彼以外にいないと思います。今後どういった決断を下すかはわかりませんが、素晴らしいキャリアを歩んできた選手ですし、直近の試合ではまだまだ強さを見せているので、自分の思う道を選んでほしいです。

　先日のゲンナジー・ゴロフキンvs村田諒太もそうでしたが、尊敬に値するトップオブトップの選手同士が最高の状態で対戦して、イベントとしても気持ちのいい形で終わってくれた。ボクシングのステータスそのものを上げてくれるような試合だったとあらためて感じます。撮っている側としても、試合前後の様子も含めて絵になるものばかりでした。

試合後、健闘を称え合う井上とドネア　©Naoki Fukuda

　前回対戦と同様、試合直後から「写真を使わせてほしい」というリクエストが世界中から届いています。とにかく井上尚弥という存在に対する反響が大きい。どんな国のボクシングファンも、やはり「倒す人」が好きなのでしょうね。いつも「もうこれ以上の試合はない」と思わせるのに、それを更新する最高傑作がどんどん出てくる。マニー・パッキャオ選手が階級を上げて勝っていったときと同じような熱を感じます。

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