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法廷決着がついた「ワリエワのドーピング事件」に残るナゾ…違法薬物はどこから? 関係者に広がった疑心暗鬼、NHKの取材にコーチ本人が答えたこと
posted2025/11/15 17:01
現在はロシアを中心にアイスショー出演などを行っているカミラ・ワリエワ(2025年10月撮影)
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田村明子Akiko Tamura
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KYODO
10月30日、スイス連邦最高裁判所はロシアのスケーター、カミラ・ワリエワに対し、4年間の出場停止処分を覆す上訴を棄却した。これでスポーツ仲裁裁判所(CAS)が昨年1月に科した処分は最終決定となり、最高裁はワリエワに対し、訴訟費用として7000スイスフラン(約135万円)、さらに世界アンチ・ドーピング機関(WADA)と国際スケート連盟(ISU)の訴訟費用、それぞれ8000スイスフラン(約155万円)を負担することを命じた。
ISUはすでにメダル授与が終わった北京五輪のフィギュア団体戦に加え、2022年欧州選手権の女子の結果も2位から4位までの選手を1位から3位に繰り上げることを正式に発表。北京オリンピックからもう少しで4年になろうとしている今、世界を驚愕させたワリエワ・ドーピング事件にようやく一応の決着がついたと言える。
だがこの事件の真相は、未だに解明されてはいない。当時15歳だったワリエワから検出されたトリメタジジンは、いったいどこから来たものだったのか。
西側で唯一現地取材したNHKの記録
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スイス連邦裁判所の最終却下のタイミングに合わせたかのように、『栄冠と絶望のリンク ロシアの天才スケーター カミラ・ワリエワの宿命』(河西大樹、今野朋寿著、講談社)が出版された。この本は、2024年3月3日に放映されたNHKスペシャル「”絶望”と呼ばれた少女 ロシア・フィギュア ワリエワの告白」を書籍化し、1時間ほどの番組ではカバーできなかった取材現場の詳細をまとめたものである。
2022年2月からウクライナへの軍事侵略を開始したロシアは、北京オリンピック直後から現在まで国際社会から孤立したままだ。この状況が、ロシアでの現場取材と情報収集を困難で限定的なものにしている。そのロシアに、NHK取材班が入ったのは2023年10月のことだった。ワリエワのトレーニングするモスクワのリンクで、本人のみならずコーチのエテリ・トゥトベリーゼをはじめとする多くの関係者の独占取材を行った。
つい4年前までスケートの国際舞台の重要なメンバーだったロシアの選手たちは、今では世界を敵に回した「ロシア」という国家の壁の内側でのみ活動をしている。本書はその壁の内側に入って現場を見た報道関係者の、貴重な記録である。日本のメディア媒体としてはもちろんのこと、ロシア以外の報道機関として開戦以来初めての取材だった。

