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「ドネアがいつもと違う…減量苦かな」“井上尚弥を最も苦しめた男”が見た敗者ドネアの異変「自分が戦った20歳の井上くんとは別人です」
text by
林壮一Soichi Hayashi Sr.
photograph byAFLO
posted2022/06/08 17:30
6月7日、WBA/IBF/WBC世界バンタム級の3団体統一戦。井上尚弥(29歳)がノニト・ドネア(39歳)を2回1分24秒TKOで下し、日本人初の3団体統一王者に
「警戒していたパンチをもらってしまったら、どんなボクサーだって、『もう2度と喰らわないぞ』と考えるものです。井上くんのようなレベルの選手なら尚更ですよ。試合前『触らせない』みたいな発言をしていましたよね。
1ラウンド目から、井上くんの動きはキレキレでした。こういう大舞台で彼は、ちゃんと仕上げてくるんだなと感じました。前回のアラン・ディパエン戦よりもコンディションは良かったですよね。大注目されている方が、井上くんはいい試合をするんだな、という印象でした」
第1ラウンド終了間際、井上はカウンターの右ストレートをドネアの左テンプルに突き刺し、ダウンを奪う。
「あの一発で、勝負あったと見ました。井上くんには余裕が生まれますし、ドネアも焦りが出たんじゃないかと。5階級を制した伝説の王者でも、やはり焦ったんじゃないでしょうか。ダウンを奪うと、精神的に優位に立てます。井上くんは『これはもうイケる』と感じたでしょう。
第2ラウンドの攻防ですが、井上くんはドネアの動きが全部見えていたでしょう。もう、時間の問題だなと思っていました」
「井上くんと再戦したい…自分もそうでした」
田口は井上との戦いの後、彼以上の選手との対戦は無かったと言い切る。あの井上に善戦出来たのだから、目の前の男に負ける筈がないと己を信じられた。
ドネアもまた、死闘と表現できる初戦で敗れながら、再戦に向けて自身のボクシングを見直し、40に手が届く年齢となりながらも再生を遂げた。ドネアが2019年に井上に判定負けしたとき、世界王座に返り咲き、統一戦としてリターンマッチを迎えると誰が予想しただろうか。
「自分は井上くんに負けて、少しでも追いつきたいという一心で、その後のリング生活を送りました。日本タイトルマッチを終えた直後は、『やり方次第では、もっとどうにかなったんじゃないか』と感じたんですよ。ドネアにも同じような感情があったんじゃないですかね。
ドネアは伝説のチャンピオンですから、当初は井上くんよりも遥か上にいたのに超えられてしまった。プライドが許さなかったと思うんです。だから、借りを返したかったでしょう。これは自分の個人的な見解ですが、今までのどの敗戦よりも、井上くんにこそリベンジしたかったような気がします。パウンド・フォー・パウンドの上位にいる井上くんに勝って、自分の価値を上げたかったのでは。自分もそう思っていました。より強くなって、井上くんと再戦することを目標としていたのです。そういう気持ちがあったからこそ、自分もドネアも強くなれたと思います」
「自分が戦った井上くん(20歳)とは別人です」
大一番を控え、ドネアは自信を漲らせていた。井上との第1戦から7カ月後にWBC王座を獲得し、昨年末には防衛にも成功。しかも共に4ラウンドKOで圧勝していれば、当然であろう。