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「あの日、井上くんが控え室まで来てくれて…」“井上尚弥に敗れた王者”田口良一がいま明かす「引退まで、彼以上のボクサーはいなかった」

posted2022/06/06 17:03

 
「あの日、井上くんが控え室まで来てくれて…」“井上尚弥に敗れた王者”田口良一がいま明かす「引退まで、彼以上のボクサーはいなかった」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

2013年8月25日、日本ライトフライ級タイトルマッチ。田口は初防衛戦の相手に井上尚弥(当時20歳)を指名。写真は前日計量での2人

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林壮一

林壮一Soichi Hayashi Sr.

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Sankei Shimbun

プロ22戦無敗(19KO)……無敵の強さを誇るWBA・IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(29歳)。その井上が「最強の対戦相手だった」と折に触れ、名前を挙げてきたのが田口良一(35歳)だ。

3年前に引退し、いまは指導者としてボクシングと関わる田口。2013年、井上にタイトルマッチで敗戦した“その後”を振り返ってもらった(全2回の2回目/前編へ)。

「井上くんとは合計3回戦っているんです」

 日本タイトルマッチで井上尚弥に敗れたものの、その戦いぶりを見た渡辺均・ワタナベジム会長は、田口良一に向かって「絶対に世界戦をやらせてやるからな」とリング上で声を掛けた。

 田口は振り返る。

「井上戦の時、自分はWBA世界ランキング3位だったんです。でも、負けて15位より下の圏外になりました。落ち込みましたね。今、思えば、世界3位で井上尚弥を相手に判定までいって、圏外に落ちるなんてあり得ないじゃないですか。その時は、世界が彼の存在を知り得なかったから、単なる3戦3勝3KOの相手に負けたってことでランク外にしたんでしょう。いかに井上くんが怪物かを、ボクシング界が知らなかったんだと思います。

 井上尚弥と、あれだけ打ち合えた、というのは、その後のキャリアでずっと根底にありましたね。あれ以降の試合が、気持ち的に楽に感じたというか。引退まで、彼以上の選手との対戦はなかったです。自信みたいなものも感じましたよ。井上尚弥と戦えたからこそ、世界チャンピオンになれたと思っています。あれだけ強い人に善戦した。井上くんが上に行って、世界を獲って、自分も追いつきたいという気持ちになって、練習量も上がりましたね。追い込み方や質が上がりました。例えば3分間手を出すなら、1発でも多く、できれば10発多く、20発多く、という気持ちになりました」

 井上戦後に2連勝した田口は、2014年大晦日、WBAライトフライ級王者、アルベルト・ロッセルへ挑戦する。

「世界挑戦が正式に決まった10月にも井上くんとスパーリングしたんですよ。彼もオマール・ナルバエス(WBOスーパーフライ級王者 ※井上にとって2階級制覇の相手)との試合を発表したあたりで。自分が横浜の大橋ジムに行って、5ラウンドやりました。ポイントは全部取られたな、という感じでした。ジャブがハンマーみたいでしたね。荒々しくはなく、ゲームメイクというか要所要所まとめてポイントをとってきました。

 だから、井上くんと僕は、合計3回戦っているんです。最初のスパーでの彼は、間髪を入れずに殺しに来ました。『スパーでは必ず倒すようにしている』とのことでしたが、非常に荒々しかった印象です。日本タイトルマッチでは、強かったなと感じました。でも、自分としてはうまく戦えたかなと。世界戦の前は上手さが増して、考えながらゲームメイクしたんだなと、どれもそれぞれ違った強さを感じましたね」

【次ページ】 「(世界王者になっても)あまり喜べなかった」

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