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「ドネアがいつもと違う…減量苦かな」“井上尚弥を最も苦しめた男”が見た敗者ドネアの異変「自分が戦った20歳の井上くんとは別人です」
posted2022/06/08 17:30
text by
林壮一Soichi Hayashi Sr.
photograph by
AFLO
「驚きでした。ここ2試合のノニト・ドネアは連続でKO勝ちしていましたし、調子が良さそうでしたから。こんな風になるとしても、もっと後のラウンドだと思っていたんです。また、自分にはドネアが勝ってもおかしくない、という気持ちもありました。でも、井上くんのレベルが高過ぎましたね。前からとんでもない選手でしたが、本当に凄過ぎますよ」
2013年8月25日にデビュー4戦目の井上尚弥と日本ライトフライ級タイトルを懸けて戦った田口良一は、WBA/IBF/WBC統一バンタム級タイトルマッチを観戦した直後に、そう言った。
判定負けを喫し、日本タイトルを手放した田口だが、井上戦を糧とし、WBA王座に就く。7度の防衛に成功し、IBF王者との統一戦にも勝利した。「すべては井上尚弥との試合があったから」と現役生活を振り返る。
WBA/IBFバンタム級チャンピオン、井上尚弥とWBC同級王者、ノニト・ドネアの統一戦は第2ラウンド1分24秒で井上がTKO勝ちを収めた。2019年11月7日に行われたドネアとの第1戦の前まで、井上は何度となく「これまで戦った中で最強の相手」として田口の名を挙げている。
「ドネアに覇気が無い。いつもと違うな…」
そんな田口に、「井上vsドネアⅡ」について語ってもらった。田口は、まずリングインしたドネアの姿を見て、戸惑いを覚えた。
「覇気が無かったですね。いつもと違うな。減量苦かな、なんて感じました」
今回、ノニト・ドネアが繰り出した最初のパンチは、ゴングから3秒後の左フックだった。2019年11月7日に拳を交えた際、井上尚弥はこのパンチで右目の眼窩底を骨折している。浅くではあるが、2冠チャンピオンはこの日も同じパンチを右目付近に喰らった。
田口は言う。
「ドネアが左フックを狙っていたのは、井上くん自身も分かっていたでしょう。それでも、もらうというところに、ドネアのレベルの高さが見られますね。あの井上くんでさえ、喰らった訳です。
その一発で、2年7カ月前の試合が蘇ったと思うんですよね。だから、気を引き締めることが出来た。フラッシュバックしたことが、プラスになったのでしょう」
試合前の「触らせない」発言
井上自身、ドネアに左フックをヒットされ、ファーストラウンドのポイントを取らねばという思いから、残り10秒でギアを上げた、と試合後の記者会見で説いた。