バージルとアリがいなければ……

　その最大の要因は、自分たちの力と従来のやり方を信じる強い気持ちにあった。

「意図的に何かを変えるような真似はしなかった。また、そうしなければいけないという焦りもなかった。私自身、内面的にも表面的にも監督としての在り方に変化などなかった。チームとしての姿勢は最後まで変わらないまま。笑顔を絶やさずに乗り切ることができたと言ってもいい。そのなかで、チームとしても、コーチングスタッフとしても強い結束のあった集団が、本当に“よき仲間”の一団になったのだと思えた。

その一体感が個人レベルの不安を打ち消してくれた。リーグ優勝は無理だという現実を受け入れなくてはならず、来シーズンはCLにも出られそうにないという覚悟を強いられるような状況を迎えても、自分たちのサッカーをして戦い続けたからこそ、気付いてみたらCL出場圏内というエンディングが訪れた」

　大きな転機となった試合が、アウェイでの第36節ウェストブロムウィッチ戦だと言う。後半アディショナルタイムに逆転のヘディングシュートを決めたのは、守護神アリソン・ベッカーだった。「コレクティブ」を強調する指揮官の口からも、ファンダイクと並んで重要性が指摘されるキーマンだ。

「こう言っておこう。あの2人がいなければ、過去2、3年はチームのスタートラインから違っていた。彼らの加入がチームの土台に安定感を与えてくれたんだ。バージル（ファンダイクの愛称）は、人間としても選手としても素晴らしい。気持ちも通じ合う。そこに、アリ（アリソンの愛称）も加えることができた。彼らがいなければ獲得したトロフィーの数は減っていただろう。だが、もちろんそんなことを心配する必要はない。このチームにいてくれるのだから」

4年前のリベンジを狙う今回のCL決勝。しかしクロップはさらなる先を見据えている　©Getty Images

リバプールはこれからも進歩すると信じている

　そして今季、リバプールはプレミア最終節まで歴史的な4冠達成を現実目標として持ち続けた。指揮官は、充実したプレシーズンをキーポイントに挙げる。

「プレシーズンはチーム戦術の視点からも重要だが、最大の要点は、シーズンを戦い抜くフィジカルの基礎を作ることにある。週に3試合をこなすペースのシーズンが始まれば、ハイインテンシティとノーインテンシティの繰り返しだ。リカバリーが大切なレギュラー陣はそれでいいが、出場時間が限られる控え選手たちは、練習の回数と時間まで減って、コンディションの維持が難しくなる。それを前もって補うためのベースを開幕前に築いておく必要がある」

　そして、精神面の充実。クロップは、こう締め括った。

「今シーズンの最終結果がどうであれ、我々はチームとしての完成度を高め、タイトルを追い続ける。優勝を逃せば、世間では『なーんだ』と言われるのかもしれないが、どんな大会でも我々が優勝の最右翼とみなされていたわけではない。マンチェスター・シティがいれば彼らが最有力候補。そう言われたくはないが、自然とそうなる。それに我々は世界一という評判には興味がない。目指すレベルはもっと高いところにある。そういう相手でも打ち負かすチームになりたいという一心でやっている。もちろん簡単ではないが可能だ。自信はある。リバプールは、これからも進歩すると信じているから」

＜前編から続く＞