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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
なぜレアル・マドリーは「CLで異常に勝負強い」のか “完璧だったはず”のマンCを逆転…カメラマンが震えた「伝統と成功体験の継承」
posted2022/05/28 11:03
text by
中島大介Daisuke Nakashima
photograph by
Daisuke Nakashima
試合終了の笛が響いた時、21歳のブラジル人プレイヤー、ロドリゴの頭の中には、言葉の一つも浮かんでいなかった。
空っぽだったとも言えるし、真っ白だったとも言える。ポルトガル語でもスペイン語でも、自身の感情を表現する単語は見当たらなかった。
顔を覆った手の隙間から、ゴール裏で揺れる白い一団をぼんやり眺めているだけだった。他の仲間が一目散に駆け寄り、輪になって喜ぶ姿もしばらく目に入らなかった。
ロドリゴ、ベンゼマの執念
舞台はサンティアゴ・ベルナベウ。
UEFAチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグ、レアル・マドリー対マンチェスターシティ戦。
すでに席を後にする白いユニフォームを纏ったファン達の姿も目につく、後半終了間際の90分、R・マドリー、カマビンガのフィードにベンゼマが反応する。必死に伸ばした左足が折り返したボールは、ボックス内中央に向かう。シティGKエデルソンの頭の中では、向かってくるそれを自分の両手が掴むイメージが出来上がっていた。
しかし、ロドリゴの頭の中には、また違ったイメージがあった。ベンゼマの折り返したそれは、自分を目掛けて向かってきていた。
エデルソンがボールを迎え入れるはずだった空間、その一寸先でロドリゴの伸ばした右足アウトサイドがそれに触れた。
そしてそれは、ゴールネットを揺らした。
それでもスコアは1-1、1stレグを4-3で勝ち越したシティは、トータルスコアでは5-4とリードしていた。
残すところはアディショナルタイムのみ、グアルディオラ率いるチームが恐れることは何もなかった。そこにいる誰もがまだ、その結末を予想だにできていなかった。
しかし91分、カルバハルが右サイドから放り込んだクロスがアセンシオの頭をかすめ、またしてもロドリゴの元に向かってくる。
それだけを見つめ、強く打ち付けるだけだった。
2分で2度もゴールネットを揺らした21歳は、サポーターに向かって吠えた、そして神に祈りを届けた。
マンC陣営には「マドリーの逆転劇」という恐怖が
シティが決勝に進むことを誰もが信じていた2分前とは状況が変わった。
アウェイサポーターが埋める一角を除いて、静かになってしまっていたスタジアムが、再び熱を帯びた。
この場にいる全ての人がこのドラマの終着点をイメージし始めていた。
それは、ここベルナベウでは何度も起こってきた奇跡(何度も起きているのにそれでも人は奇跡と呼ぶ)であり、マドリーファンには信じるだけの拠り所があった。
そしてシティ指揮官、選手、ファンにとっては、今回ばかりは起きて欲しくない、マドリーの逆転劇という恐怖を伴うイメージだった。