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「1人ずつだよ」20歳佐々木朗希に木村コーチが投げかけた言葉とは? よみがえる高3センバツの苦い記憶《9回1死まで完全→逆転負け》
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千葉ロッテマリーンズ取材班Chiba Lotte Marines
photograph byChiba Lotte Marines
posted2022/05/05 17:04
今季マリーンズの投手コーチに就任した木村龍治(右)。高3センバツで完全試合に迫った経験を、20歳の佐々木朗希に伝えていた
その後、完全試合とは縁がなかった。ジャイアンツ入団後、94年にチームメートの槙原寛己投手が完全試合を達成した時も二軍にいた。月日は流れ、今季からマリーンズの一軍投手コーチとなり、いきなりその瞬間に立ち会った。
「完全試合ってなかなか身近にあるものではない」
自身が9回一死で成しえることが出来ず、その後の人生でも立ち会うことはなかった。普通にあるものではないと思っていた大記録が突然、圧倒的な迫力で間近に迫っていた。木村コーチは高校時代の事を思い返し、あえて投げ終えて戻ってくる佐々木に声をかけ続けた。
「回を追うごとに誰も声をかけてくれなくなる。高校時代にそれを感じた。普通ではない感じ。だから朗希にはあえて毎回、声をかけた。『1人ずつだよ』って」
後藤駿太を右飛に打ち取った7回
現実には起こりにくいと思われたものをリアルなものに感じたのは7回だった。
佐々木には少し疲れが見え始めていた。バファローズ先頭の後藤駿太外野手に3ボール。しかし、ここから粘った。1ストライクを取ったあと、浅い右飛に打ち取る。ベンチで固唾を飲んで見守っていた木村コーチが自信を深めた瞬間だ。
「もう四球の心配はないかなと思った。あの球があって、残りは2イニング。圧倒的なパフォーマンス。相手もバットに当てるのが精いっぱいのような状態。なかなか攻略できないはずだとは思った」
最後は代打・杉本裕太郎外野手を空振り三振で打ち取り、試合終了。28年ぶりの偉業が達成された。
ロッカーに戻ると木村コーチのもとにも沢山のお祝いメッセージが届いていた。高校時代のチームメートからも連絡が来ていた。「完全試合ってこうやってやるんだ」。そう返信した。高校3年春から長い年月が流れ、50歳を超えた時にまさかこのような形で完全試合に立ち会うことになるとは夢にも思っていなかった。
「圧倒的な投球で抑え込む。完全試合ってこういう人がこうやってやるんだと教えてもらった。凄いものを見せてもらった」
木村コーチは何度もそう口にしていた。