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「1人ずつだよ」20歳佐々木朗希に木村コーチが投げかけた言葉とは? よみがえる高3センバツの苦い記憶《9回1死まで完全→逆転負け》
posted2022/05/05 17:04
text by
千葉ロッテマリーンズ取材班Chiba Lotte Marines
photograph by
Chiba Lotte Marines
「完全試合って、こうやってやるんだな」
4月10日のバファローズ戦(ZOZOマリンスタジアム)で佐々木朗希投手が完全試合を達成した時、一塁側ベンチで見守った木村龍治投手コーチは、思わず口にした。
「凄いなあと思ってね。『おめでとう』ではない。とにかく凄い。『やったね』でもない。凄い」
木村コーチは圧巻の投球を興奮しながら、そのように振り返った。完全試合を目の前で見ながら思い出したのは、自身の高校3年時のピッチングだった。
完全試合に迫ったセンバツのマウンド
愛知・中京高校(現・中京大中京)のエースだった1988年春のセンバツ。ベスト8をかけて山口・宇部商業高校と戦った。
「すごく調子が良かった。打たれる気がしないぐらい。コントロールがよくてどの球種でも自分の思っていたところに投げることが出来た。途中で、もしかしてとは思うようになっていた」
伸びのあるストレートと多彩な変化球を駆使して1人の走者も許さず、気が付けば9回になっていた。大会史上2人目の偉業達成を目前に控え、甲子園は異様な雰囲気に包まれていった。
先頭打者を投ゴロに仕留めた。大歓声が起こる。続く8番打者。ストレートで2ストライクと追い込む。1ボール、2ストライクからの4球目のアウトコース低めのスライダーだった。コツンと流して打たれた打球は一、二塁間を抜けていった。
「打たれないと思って投げたボールなので、打たれた事には悔いはない」
そして試合はさらに誰もが想像もしない展開へと続いた。2死から逆転2ランを浴び、試合に敗れる。完全試合が一転、悔しい敗戦となった。若くして野球の難しさと向き合った。
「負けたから、完全試合をしそうになった思い出というよりは、打たれて負けたという思い出の方が強い。当時、『もう一回、あの試合に戻りたいか』と聞かれることもあったけど、戻れない。もう1回やったら、あそこまで完全に投げられない」
木村コーチは若き日の想いを口にした。